本の運命 (文春文庫 い 3-20)

著者 :
  • 文藝春秋 (2000年7月7日発売)
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本棚登録 : 773
感想 : 71
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『吉里吉里人』は、筋書きはピカイチな一方で下ネタの容量が凄く、フラフラになりながら読み終えた記憶がある。それに反して本書は、井上氏の本にまつわる記憶が穏やかな話し言葉で綴られた、低刺激のカフェインレス本(笑) とても同一人物が書いたとは思えない…!
中間では「井上氏なりの本の読み方10箇条」なるものも披露されている。「本のしおり紐を自分で増やす」以外目新しくはなかったが、その分今でも通用しそうな点も多かったので今後の読書で活かしたい。

「『アッこの本はあとで買えばいいや』と思って買わないでおくと、そういう本に限って、必要になってくる。ところが、今度はいくら探しても遂に見つからなくて、[中略]後悔する。」
「本との出会いは、『一期一会』みたいなところがありますね」

分かる!自分も何度経験したことか…!何故かそういう風になっているんですよねー…。
それがベストセラーやロングセラーの本だと再会できる確率はグッと上がる。でも井上氏の場合はどちらも指していない気がするんだよなー。ほぼ万人受けの作品ではなく、自分にしか引っかからない作品が必ずある。少しでも引っかかった瞬間が購入のベストタイミングなんだな。
その都度カートに放り込んでいくと自宅が床抜けすることもあるらしいので、程々にしたいけど笑

山形のご実家は雑貨店を営んでおり、雑誌類含め本も沢山置かれていた。またご両親ともに大変な読書家で、屋根裏や戸棚等常に本が視界に入るご環境だったという。お祖父様の話す昔話やつくり話(笑)・極め付けは高校時代に読まれたディケンズで、物書きの世界に仲間入りしたいと強く願うようになった。
本をたんと読みたいがために上京して闇屋をやったり(!)、欲しかった古本を譲ってもらおうと先客を半ば脅迫する等、驚かされることもしばしば。いや、物心つく前から本に囲まれていたら、逆にそうなっても驚かんか…。

「こうやって、本が人の手から手へと渡っていくと、おもしろいことがいろいろ起こりますね。[中略]本はそうやって、人の寿命をはるかに超えて生き延びていく。すごい生命力ですよ」

新刊書店は勿論、古本屋も頻繁に利用していたという井上氏。
『腹鼓記』執筆時のエピソードが特に面白い。神田じゅうの古本屋さんから狐と狸に関する書籍を集めた結果、『平成狸合戦ぽんぽこ』製作中のスタジオジブリが閲覧を求めてきたんだとか。そうして溜まりに溜まった蔵書を故郷に寄贈した結果、図書館が出来ちゃったって話もシンプルに凄い。
自分自身古本派ではないが、そうした巡り合わせのストーリーを生み出させちゃうのが何だか羨ましい。

井上氏の話し方は、まるで昔話をしているかのように自然体である。自分が見聞き(/読み)したものをそのまま会話に乗せる、今で言う「言語化が上手い」ってやつ。
読書感想文や食レポで無理やり引き出すのではなく、井上氏みたいに素直に自分の言葉で語れたら…。そう思って思うがままに書いてきたけど、統一感のないところだけは自分らしさがよく出ていた( ; ; )

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年4月27日
読了日 : 2024年4月27日
本棚登録日 : 2024年4月27日

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