東方見聞録 (世界探検全集)

  • 河出書房新社 (2022年9月21日発売)
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感想 : 9
4

『東方見聞録』を読んでみる日が来ようとは…!笑
本書は1978年刊同名タイトルを昨年復刊したものらしく、新たに加わった解説も相まって読みやすかった。実際仕えていたとはいえフビライ・ハン(以下本文に倣い、大ハーン)を必要以上に崇拝していたり(「君主のうちの大君主」)、旅行先の描写も誇張されていそうで胡散臭さはあったけど、国外どころかアジア方面なんて未知の領域だったヨーロッパ人にはこれが全てだったんだろうな。

マルコ・ポーロ(以下、ポーロ)は故郷ヴェニスへの帰還後、国同士の小競り合いに巻き込まれて1年間捕虜として獄中にいた。その間同室だった大衆作家に、自身が旅してきたアジア諸国(日本・東南アジアを除く)や大ハーン治世下の情勢や暮らしぶりを語ったのが『東方見聞録』の原型である。ヴェニス帰還までのダイジェスト→旅行先の詳細を順番に述べていく構成だ。

しかし後世の人物が加筆したことにより見聞録はボリュームアップ。(内容については真偽の程が怪しい箇所が増えたかもだけど…)
四方田氏(比較文学者)がまえがきで述べていた「数百年の間に形成された、東方世界をめぐるアーカイヴ」は、最適な見聞録の捉え方かもしれない。

我々日本人にとって『東方見聞録』といえば、やはり「黄金の国ジパング」。
…なのだが、あれだけ大々的に、しかも割とインパクト強で習ったわりには、意外と「チパング」(本文中の表記)の項はあっけない。その僅かな内容もやはり胡散臭いし…。
「チパング」支配者の宮殿は、窓に至るまで金で出来ている。バラ色の真珠を多量に産出する。住民は人喰い人種。(!)
どうやらポーロは実際「チパング」に行っておらず、元寇の経緯までもチグハグに伝え聞いているという。例えば北風が激しく吹いて小島に逃れた元の兵士達が、追討に来た日本の船に忍び込み「本島の首都」(鎌倉?京?)に向かったとか…。これもこれでインパクト強だな笑

元寇といえば…でもう一つ。
「戦闘前に名乗り口上をする習慣(?)が元側になく、あっという間に日本側が追い込まれた」と昔授業で習った。(気がする)
しかし大ハーンが臣下ナヤンと対決する際、元寇みたいに有無を言わさず攻め入るような真似をしていないことに気づいた。陣営が整うや、鳴物が響き両軍全員が声高らかに歌うのだと。しかもそれがタタール人(蒙古人のこと)の習慣なんだと。
名乗り口上ではないにせよ、彼らにも戦闘前の習慣があって士気を高めていた…。知られざる歴史の1ページを覗いたような、教科書より一歩先をリードしたような優越感に浸る(笑)

釈放後のポーロは、大旅行家として人々から尊敬されると同時に大法螺吹きと呼ばれた。国外を出たことがないヨーロッパ人からしたら全てが出来すぎた話だったからだ。(まぁ「チパング」といい、伝聞で済ませた場所は確かにいい加減だったし…)数世紀を経てようやく探検家がその正確性を見出し、見聞録は真価を認められることになる。
信憑性はともかく、彼が生涯をかけて辿った旅路は嘘ではないのだろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2023年8月4日
読了日 : 2023年8月4日
本棚登録日 : 2023年8月4日

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