同名の映画版(2015年)が好きで、不特定多数の人に推しまくってきた。
ある日推した一人から「アイリーシュ(ヒロインの名前)が渡米してやんちゃになっただけの話では?」という意見があり、ショックを受けることがあった。
悔しいことに、渡米して自由な風に吹かれて身も心も垢抜けていく、というのは考えれば考えるほど否めない。閉鎖的とは言え愛する母親がいる故郷に背を向けているようにも見えてきて、自分も段々その意見に傾いていた。
そんな自身の寝返りを食い止め、また、アイリーシュの深い胸の内も知りたくなって原作に飛びついたのである。
1951年アイルランドの片田舎に住むアイリーシュはフラッド神父の計らいにより働き口を得て、ひとり米ブルックリンに移住する。(ブルックリンにはアイルランド系移民が多く暮らしている)
この作品の好きなところは、礼儀正しいが引っ込み思案な彼女が、(恋人のトニーをはじめ)様々なバックグラウンドを持つ人との出会いを重ねて変化していくところだ。何なら身も心も垢抜けていくところだって、見ていて心地良かった。
映画はほとんど原作に忠実だったが、原作ではエイリーシュの心情変化がより細やかに描写されており、自分の中でモヤっていたものへの答えがすぐに得られるような気がした。
実際、思っていた以上の気づきがあった。
アイリーシュは、故郷に背を向けたわけではない。
彼女は渡米前「アメリカに移住したアイルランド人たちは望郷の念を忘れて得意満面で暮らしている」と聞かされていた。しかしクリスマスの慈善パーティーに集まった、行き場のない何十年も故郷と音信不通で援助してくれる人もいないアイルランド人たちを見て考えを改める。
また「ここでは自分は幻のような存在だ」と思い詰め、激しいホームシックにもなった。
転機はやはりトニーとの出会いだろう。一度帰郷し故郷への思いに揺らぎつつも、最終的には自分の居場所ではないと感じるまでに彼女は生まれ変わっている。
ここまでは映画で見たままのアイリーシュだったが、最後のあの一節で故郷を完全に締め出したわけではないと悟った。
今後帰郷する機会があっても、それは身内の「婚」と「葬」くらいになるだろう。だが、何年経ってもあの母親の姿は彼女の脳裏にくっきりと焼き付いていると思う。
「じっとして、息をなるべく静かに保って、吐きたくなったら思う存分吐いちまうがいい。明日には新しい女に生まれ変わってるよ」
ようやく自分を取り戻した気分笑
映画では伝わりきらなかったところもあったし、(どんな作品にも言えることだが)万人受けするって難しい。こうして書いてきたけど、まだまだ掴みきれてない箇所だって絶対ある。
でも何と言われようが、これだけは言える。自分は原作・映画版どちらの『ブルックリン』も好きだって。
- 感想投稿日 : 2023年2月17日
- 読了日 : 2023年2月17日
- 本棚登録日 : 2023年2月17日
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