喪国 (R/EVOLUTION 10th Mission)

著者 :
  • 双葉社 (2012年11月28日発売)
3.96
  • (18)
  • (19)
  • (18)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 148
感想 : 27
5

全10巻の革命小説シリーズ最終巻。作者が12年かけて書き上げられた壮大な革命を目の当たりにできた幸福感が残る読了感だった。
これまで登場した様々な人々が集結するオールスター版といったところなので、所々「この人誰だっけ…」となってしまった所もあったり。それでも複雑に細かく張られた糸が全て一ヶ所へ集結するような、緻密に計算された人間関係に驚嘆した。まさかこの人とこの人にこんな繋がりが!とか、この話がここに繋がるのか!等気持ちが良い程鮮やかに、まるで手品を見せられているかのような手際の良さでラストに向かって線が交わっていく様は読んでいてとても気持ちがよかった。

3人の日本人と1人のタイ人がおかされた、まるで夢物語のような『愛国の病』は着実に次の代、そして次の代へ引き継がれていき、そして和田、パイトゥーン、鄭夫人、根岸等が死に完全に代替わりした。計算された革命はまるで彼等の手の内で日本という極東の島国が踊らされているようで、恐ろしさと同時に感動すらおぼえるが、彼等の亡き後『計算されていない真の革命』が起こってしまう辺り鳥肌が立つ。彼等が60年以上患い続けた病はこの国をどう変えたのか、そして真の革命は彼等にとって良い方向へのスイッチだったのか、計算されていない革命の先は誰にも分からない。彼等の密約もまた、真の革命後の日本で続いてゆくのかどうかも分からない。新たな後継者達はどうするのか、それがとても気になる。

散らばった火種に点火したのはドゥルダだったけれど、彼女はただ愛した男への復讐の為だけに火をつけたという辺りがなんとも面白い。彼女は革命等きっとどうでも良かったに違いないのに。
サーシャという、全てを手に入れているようで本当に欲しいものは何も持たない魅力的な男は血にまみれながら祖国を思いつつ、それでも新しい若い力を目の当たりにして前を向く事を知ったのかもしれない。彼はこの革命で莫大な富を手に入れたけれど、それでも彼が欲しいものはきっと何一つ手に入らない。それでも彼は祖国の為にしか生きられないのがなんとも悲しいと思った。
そして、彼に選ばれた共犯者である亮司。最後の最後で何故彼が美しき革命家サーシャに選ばれたのか、その理由が鮮やかに理解出来た。彼は彼と関わった誰にとってもミューズだったのかもしれない。
神に与えられた確かな審美眼で、亮司はこの革命を、そして革命後の日本という国をどう見るのか。そしてけして叶えられる事の無い夢をただ置い続けるサーシャの野望の先にどんな世界を見るのか。それはミューズの目に美しく映るのかそれとも醜く映るのか……。
前巻だが、リャンが亮司の事を語った「惚れてはいないけれど愛している」という言葉がなんとも印象的で、きっと誰もが、あの大川でさえ、争いが似合わず育ちの良さが滲み出た、甘いミューズを愛していたのだろう。だからこそ、彼は見届ける役目を与えられたんだろう。
「革命を起こさないか、この国に」という言葉のなんと危険で甘い事か。きっと亮司はこれからもサーシャのこの言葉をただ信じて見極めていくのだろうと思った。そしてきっとこれからも彼がサーシャの手を離さないでいてくれる限り、サーシャという危うく脆くとても力強い美しい男は生きていけるのではないかと希望を持つ事が出来た。愛されているなあ、亮司。本当に沢山の人に愛されている。

この国を守ろうとした者、この国で生きようとした者、この国を憎んでいる者、そしてこの国を変えようとする者達の沢山の血の上で起きた革命は、けして小説の中だけではなく、いつかこの国に起こるのかもしれないと思わせるリアリティと説得力に圧倒されたシリーズ最終巻だった。もしその時が本当に訪れたなら、自分はいったいどうするのだろうかと、これからも日々のニュースを見る度に思う事だろう。
本当に面白い壮大な物語を読み終えて大満足していると同時に、なんだかとても寂しくなってしまった。文庫版での書き下ろしにも期待してしまう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2014年3月13日
読了日 : 2014年3月13日
本棚登録日 : 2014年3月13日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする