深層心理学と新しい倫理: 悪を超える試み

  • 人文書院 (1987年11月1日発売)
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ユダヤ人系ドイツ人として生まれた著者ノイマンは、
哲学と医学を修得したのちユングと出会い、以後、
終生ユング派の深層心理学研究グループに属する。
ナチの手の伸びる大戦前にイスラエルへ移って開業し、そこで没する。

自らの出自もあり、彼は、戦争をはじめとする人類史的悪が、
いかにして生まれるのかを研究した。
そして、「古い倫理」と彼の言う、先進国の思想基盤に
端を発した、人間の「影」(深層心理の抑圧)と、
スケープゴート心理を見いだし、論じている。
ユングとフロイトの思想に基づいて独自の理論を展開し、
「古い倫理」がもたらす社会の歪みに警鐘を鳴らし、
もはや社会には「新しい倫理」が求められていると主張する。

彼はここで重要なキーワード、「深層心理=無意識」に光を当てる。
区分や分離ではなく、対立し合う要素をひとつの構造に結びつける
社会の流れへ移行すべきだと、力説するのだ。
その「新しい倫理」がめざすものは、意識と無意識を統合させた
全体的人格、「自己」であるとし、近現代の抑圧と抑制を強いられてきた生を、
解放してゆくことを呼びかけている。

思想の書はまだ多くを読んでいないが、世界の危機を
倫理という観点から分析した、古典に当たる書だろう。
しかし憂うべきは、この書が発行されてから60年を経た今も、
依然「古い倫理」がまかり通っていることだ。
年齢を問わず、現在の世界に疑問を投げかける人には是非推薦したい名著。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 山口文庫
感想投稿日 : 2010年2月9日
読了日 : 2010年2月9日
本棚登録日 : 2010年2月9日

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