風の置手紙: 渚と澪と舵 (角川文庫 緑 348-1)

著者 :
  • KADOKAWA (1973年6月1日発売)
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感想 : 6
5

結婚に幻想はいだいていなくて、自由を愛するタイプで、男の人も好きで、人間と冒険と世界はもっと好き、という人はこの本を読んだほうがいい。

きっとこういうタイプであろう若い女の子に勧めてもらって、結婚後17年経った今読んだ。時すでに遅し、と思う気持ち半分、全く遅くない、と思う気持ち半分以上、という心境だ。

1960年代にあって、結婚に対して、母であることに対して、これほどのびやかでいられる女性がいたとは、驚き以外の何物でもない。もしかすると現在のほうがかえってマスコミがつくりあげているイメージのしばりが強くそこからはみ出るという発想になりにくいかもしれないではあるが、ネットもなく通信手段も限られていた時代に、好奇心から発動する発想力、行動力、コミュニケーション力(人としての魅力のみならず、手紙などの連絡手段のマメさ)をもってして常識を軽々と覆してゆく幼い子持ち女性の旅の話は、自分の欲求を、時には無自覚に抑制してしまいがちな母や妻に、自己抑制はただ常識に安住して知恵を働かせるのをさぼっているだけだ、機転を利かせれば相当いろいろできるよ、と勇気を与えてくれる。

幼子を抱えた彼女にスイッチが入ったその瞬間から旅がはじまってフル回転で画策・リサーチが始まる。彼女の好奇心は、能力だ。

愛とか平和とか叫ばなくても、人間が大好きな彼女はきらきら輝いていて、まわりをどんどん味方にしていく。それでいて独自の意見や鋭い観察眼も持ち合わせており、旅先の洞察はユニークで切れがある。

ベトナム戦争従軍記がとても面白かった。好奇心を満たすためだけに従軍記者になりすますための書類を偽造するという荒わざを着想しそれを軽々とやすやすと行い、蚊の襲撃や炎天下の行軍、爆撃機への同乗、命が危険にさらされる現場に突っ込んでいくタフさ。そして、ある程度の良識をもちながら、フラットに状況を観察するセンス。ヒッピームーブメントを生んだベトナム戦争反対の機運に対する、現場を見たものならではの見解。

聡明さも行動力も機転も人に好かれる度合いも彼女の100分の1もかなわないけれど、それでも自分はごく洋子的な人間なのだと確認し、感動の内に本を閉じた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2015年2月22日
読了日 : 2015年2月21日
本棚登録日 : 2015年2月21日

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