思い返してみれば、歌舞伎のことを何も知らなかった私がはじめてちゃんと歌舞伎を見たのは、2013年1月の大阪松竹座、「生で香川照之が見れるなら行ってみようかな」と思ったのがきっかけでした(その頃大阪に住んでいたので)。
香川照之の歌舞伎界入りは、芸能ニュースとしてたいへんスキャンダラスなできごとでしたし、賛否両論あったみたいでしたが、それまで歌舞伎に興味のなかった私のような新しい観客を確実に増やしたわけだから、俳優としてのキャリアと人気を築き上げた上で飛び込んだ香川さんも、受け入れた松竹の方も、戦略として正しかったんだろうなー、と思うのであります。
しかしこれは外野の戯れ言。
当のご本人は何を思って決断し、どんなことをどんな思いで実行してきたのか、それがご本人の言葉で語られているのがこの本。
「歌舞伎役者の家に生まれた運命」
「血筋」
「生まれてきたときの約束」
「果たすべき責任」
こういった言葉が何度も繰り返される、重い本でした。
(もちろん、歌舞伎界裏話、としての面白さもありましたが。)
うーん、わからん世界の話だなあ、と思ってしまえばそれまで。
本の後半、「正しい生き方をするのが地球のための役者の使命」というような壮大な語りになってきます。正直ちょっとめまいがしましたし、考えとして賛成しがたい部分もありました。
でも、連綿と続く命、エゴ、生きる意味・・・といったことをとことん考えて、あえて棘の道を選択して見せた、苦々しい皺を顔に刻んだこの俳優さんのそういう思念を受け止めるなら、「別に伝統芸能の家に生まれたわけでもない私には関係ない」なんて簡単に思い捨てずに、背筋を正して生きねばなるまいなと思います。
「正しく生きる」とかなんとか、大袈裟だなあとも思うのだけど、人に見られる職業、農業や漁業のように直接わかりやすく「役に立つ」というわけでもない俳優という職業の意義のようなことも、この人は考えて考えて考えてきた人なんだなあ。。。
ワイドショー的好奇心で読んでみた本でしたが、意外と考えさせられてしまいました。
- 感想投稿日 : 2015年5月11日
- 読了日 : 2015年5月11日
- 本棚登録日 : 2015年5月11日
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