上野千鶴子さんの著書をちゃんと読むのは初めてだった。この本は、二〇一〇年つまり十三年前、自分に引きつけて考えると、だいたい私が働き始めたようなころに出た本だ。女性の私が会社員として働くなかで見えていた風景ひとつとっても、この十数年でけっこう変わったという実感がある。この本の内容は、そういう意味では「古い」と感じる点がないわけではなかったが、だからといって今更読む意味がないということにはならない。理由は次の通り。
第一に、「けっこう変わったという実感がある」といってもそれはつまり、「私が個人的に経験する範囲では、女性蔑視的な文化・習慣が弱まったりなくなったりしていると感じることもある」という意味なので、社会全体から見ればまだまだ局所的な変化でしかないと思われるため。それどころか、逆に女性蔑視がより強まっている領域だって、おそらくあるようにも思う。
第二に、第一の理由の通りまだ大きく視座が変わるほどの変革は起きていないとするならば、執筆時点以前の歴史的経緯や、事件や、作品や、先行研究(上野さん自身のものも含む)に対して本書で上野さんが行なっている整理・紹介・評価は、全く古びることはなく有用であるため。流行りが過ぎれば価値がなくなるというようなものではない。
第三に、仮に一部の局所的な恵まれた環境においては女性蔑視の克服が達成されているとして、かつ読者がそこに安穏に暮らす者であったとしても、そこに至るまでの凄惨な歴史や、折り重なる死屍累々の存在や、周囲では今もなおそれが現実であるということを、知らないよりも知っていた方が人として深く豊かになるだろうと思うため。
…というわけで、少なくとも私にとってはこの本を読んだことがフェミニズムに目を開く第一歩となった。「今この本」だったのはたまたまのご縁だが、上野千鶴子という人の積み上げてきた功績の偉大さ(の片鱗)がわかったので、今後も読んでいきたい。
内容各論の読書メモや感想は山ほどあるが、ありすぎるので割愛。中途半端にはまとめられない…。
- 感想投稿日 : 2023年2月8日
- 読了日 : 2023年2月7日
- 本棚登録日 : 2023年2月5日
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