K県の風情ある街並みの残る街で、代々医者をしている家の主の誕生日を祝う日、その家には毒の入った酒とジュースが届けられた。家族はじめ近所の子供や祝いに来ていた客人たちに振舞われたそれは、華やかな祝宴を一瞬で地獄絵図へと塗り替えた。
幼いころ、この事件に関わった少女は、大学生になりこの事件の関係者に話をしてもらってまわり、一冊の本を出すことになる。本は話題となりまたあの事件に光があたった。犯人の自殺という終わりを迎えたこの事件はいくつかの謎を残し、そしてたった一人の生き残りである少女の目が見えなかったために、彼女はまるで悲劇のヒロインのように街の人間の中に残った。
本が発売され、話題となってからまた時間が過ぎ、作者の女性、彼女とともにあの家の異常を発見した兄、下の兄、毒を飲みながらも飲み込んだ量の関係で生き残った使用人の女性の娘、事件を追っていた刑事、犯人の男と面識のあった少年。インタビューの形をとり、またはその人の思い出として語られる事件のあらまし。この聞き手は誰なのか、なんのためにまたこの事件を掘り起こそうとしているのか。そしてみんなが神のように語る生き残りの盲目の少女緋沙子はいったい何を“視て”いたのか。
生き残ったもう一人の使用人をしていた女性が、刑事からの折り鶴を受け取って泣き崩れた時に「違うんです」といった真相は、緋紗子とその母親との関係を知っていたからなのか。どうして本の作者である満希子の幼いころの章でだけ緋紗子は久代と書かれているんだろう。こうだったのかも、ああだったのかもと、読み終わってしばらく舞台となった町を歩きながら考えを巡らせているような気分で考え続けていた。
気になって気になって、ネットで何人かの考察を読んで納得。三章(久代)は【忘れられた祝祭】の一部抜粋だったのか。なるほど。そういう仕掛けがすごく好き。そう思って読むと、意味深な章だなぁ。
- 感想投稿日 : 2019年9月9日
- 読了日 : 2019年9月3日
- 本棚登録日 : 2019年9月3日
みんなの感想をみる