19世紀後半、ダーウィンの進化論に揺れる英国。牧師であり博物学者である父の世紀の発見「翼ある人類」の化石が捏造だったというスキャンダルから逃れるために、14歳のフェイスは、両親に連れられ、弟とともにヴェイン島に移住する。好奇心の強い彼女は、その捏造が厳格で正直な父の所業とは納得できず、スキャンダルの内容をもっと知りたいと思っていたが、島での父は、人を近づけたがらなかった。父からの依頼で「秘密」を手伝って「植物」を海の洞窟に運び入れた夜、再び出ていった父は、翌朝木に引っかかった形で死亡しているのが確認される。自殺が疑われるため通常の埋葬ができない。検死と審判まで埋葬は待たれることになった。父の手記から、隠した植物が「偽りの木」で、嘘を養分として育ち、つけた実を食すと真の知識を得られると知った彼女は、父の死因を突き止めるためにその木を利用しようと考える。
自分たちの生活を守るためと真実を突き止めたい好奇心から「嘘の木」を利用する少女が、真実と嘘、女性の立場と戦略などに気づいていくミステリー。
*******ここからはネタバレ*******
これは文句なしにおもしろかった。秀作です。
「進化論」に揺れる学会と教会で、その両方に所属する厳格で正直な父親が、嘘をつくことによって真実を得ようとする矛盾。
女性は無知だと言いながら「お前がどれだけ賢いか、証明してみせてくれ」と娘に秘密の協力をさせる父親。
そして、無知で非力な女性が、その存在感のなさを利用して周りの男達をあやつる。
フェイスの貶められぶりが実にすごい。
雨の中馬車の荷重が大きすぎて何かを降ろさなければならなくなったとき、弟よりも荷物よりも娘であるフェイスを降ろすことにするとか、弟の子守役を押し付けられるとか、母が、自分の年齢を高く見積もられたくないために娘にわざと子どもの格好をさせ続けるとか、頭蓋骨が小さいから知恵を入れないほうがいいとか、稼げないし名声も上げられないし、持参金は家から出るし、嫁に行かなければ弟の面倒になると言われるし……。ああ、この時代の女性は本当に大変だったんだなぁと思います。こういう人たちの人生の積み重ねのおかげで、フェイスの受ける辛い仕打ちも、過去のものとして受け止められるのでしょうね。
この物語の中で突出しているのは、「嘘の木」の存在感よりも、主人公フェイスの頭の良さです。
この木を利用するに当たり、父のサンダリー師は、自分の名誉を引き換えにしましたが、賢い彼女は、出どころを突き止められず、かつ、人々が勝手に翻弄されるような嘘をつくっています。この賢さが父親にあれば今回の悲劇はなかったでしょうに。
彼女の嘘のおかげで放火や略奪、傷害を負ったミス・ハンターが、最後に彼女たちを助けてくれるところと、彼女が都合よく持っていた手鏡のおかげで嘘の木を焼けたというところだけは、ちょっと出来すぎ感はありますが、読みながら、どんな結末になっても満足できるだろうという安心感がありました。
なんとも完成度の高い作品です。
子どもたちだけでなく、大人の読書にも十分耐えます。
- 感想投稿日 : 2020年7月15日
- 読了日 : 2020年7月15日
- 本棚登録日 : 2020年7月15日
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