この川のむこうに君がいる

著者 :
  • 理論社 (2018年11月16日発売)
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誰も自分のことを知らない高校を選んだ梨乃は、中学校では実現できなかった吹奏楽部への入部を決める。新入部員のほとんどが経験者で、希望していたクラリネットにはなれなかったものの、部長の詩織のお陰でサックスもがんばろうと思えてきた。彼女は、同じ新入部員の遼が、皆に自分が東日本大震災と原発事故の被災者だとあっけらかんと語ることに驚き、彼とは距離を置こうと思うのだった。

震災で傷ついた少女が、周囲の温かさとともにそれを受け入れ、普通の高校生として生きていく過程を描く。


*******ここからはネタバレ*******

この「川のむこう」とは、自分と同じ想いを共有しない人たちのこと。
川のこちら側とあちら側とでは、震災の規模が違うし、亡くなった人も違う。今放射能だらけのところにいる人もいれば、放射能はないけれどそれで差別されている人もいる。人の不幸を比べることはできないけれど、誰もが皆、他の人には理解され難い苦しみを抱えている。
主人公がラストで、川にかかる橋を渡ろうとするのは、お互いの想いを分かち合いたいと思ったからなのでしょう。

この本には、ぜひあとがきが欲しかった。著者が、どんな経験や気持ちで、これを書いたのか知りたい。


梨乃が、中学校に入ったばかりで2歳年上の太一と付き合うとか、高1の遼が、同い年の佑香に結婚を申し込んで遠距離恋愛中とか、今どきの恋愛事情にうろたえますが、これも辛い経験あってのことなのかも知れません。

結局、人の心に寄り添えるのは、その人を大切に思う気持ちだけなのではないかと思わせてくれる一冊です。


文章は平易なので読める子なら中学年からでも読めますが、彼らの気持ちを慮るにはもう少し経験があったほうがいいかも知れません。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 児童書
感想投稿日 : 2020年1月20日
読了日 : 2020年1月20日
本棚登録日 : 2020年1月20日

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