ずっと昔に、優しい医者と明るい妻は湖のほとりに小さな木の家を建てた。4人の子どもたちと暮らすために。
野菜を育て、鶏を飼って、湖で泳ぎ、夜は父親に暖炉のそばで読み聞かせをしてもらいました。
家はとても幸せでしたが、ある日家族は兵隊に言われて出ていかなくてはいけなくなりました。
その後、音楽家の家族が住みましたが、その一家も従軍命令を受け取ったときにそこから逃げました。
戦闘機が上空を飛び、夜空がオレンジ色に染まっていきました。
音楽家の友人夫婦がしばらくこの家に避難してきていましたが、煙突に玉が当たって砕けると逃げていきました。
その後、あたたかそうな帽子をかぶった男が家族を連れてそこに住みました。家は修理され、子どもたちの笑い声が響きましたが、ある日、湖との間に塀が建てられたのです。
第2次世界対戦前後の人々の暮らしを、曽祖父が建て祖母が暮らした「家」から見た物語。
******* ここからはネタバレ
1927年に建てられた家が、100年近くも利用されていることに、日本人の私は驚かされます。
だって、この家は木造だからです。日本の木造住宅の寿命は30年と言われていて、普通に建てられた家が100年持つことは非常に稀なんです。もちろん、高温多湿の気候の影響もあると思いますが、建て替えずに修理して使う文化の違いも大きいと感じました。
こんな絵本ができるほど長寿の家があるんですねー。
そして、そこに住んでいる人のことなんて全然考えず、公聴会も説明会も開かれずに「壁」ができたようすがよくわかります。
絵から察するに、これで日当たりが悪くなったということはなさそうですが、湖の恩恵がなくなったというのは大きな負の変化ですよね。
今ならはしごを掛けたりトンネルを掘ったりして出入りしてしまいそうですが、当時はそんな事もできなかったのでしょう。この辺の閉塞感についての描写が、当時を知らない読者のためにも望まれるところです。
正直私は、この家にあまり感情移入できませんでした。事実ばかりが語られて、戦争で壊れたときでも、家の気持ちが綴られていなかったからかも知れません。
察することが読者に求められていたのでしょうが、「ちいさいおうち」のように気持ちを語ってほしかった。どうしてほしいのかわからないのでモヤモヤしましたんです。
さらに、なんか最後に家を直した著者が英雄的にも見えてしまって、何なのー?って気持ちにもなったんです(←私のやっかみ)。
この本自体はむずかしくありませんが、含まれているものを理解するには歴史的な知識も必要です。せめて「壁」のことを知っている子にオススメしたいです。
- 感想投稿日 : 2022年2月23日
- 読了日 : 2022年2月23日
- 本棚登録日 : 2022年2月23日
みんなの感想をみる