フィクションらしいが、近未来の老人介護問題を描いているので、実現するかもしれないと、恐ろしいものを感じた。重いテーマで考えさせられることがいっぱいだった。
まず書き出しの「廃用身」と言う言葉だが、脳梗塞などで麻痺して回復の見込みのない手足のことをいうらしい。「廃用身」となった老人の手足を切断する治療方法「Aケア」を発案した老人医療ケアセンターの院長漆原。彼はいらない物を取り去ることで、麻痺した後の疼痛や苦しみから老人を救おうとしていた。
前半は、漆原医師が出版社の編集部長・矢倉に説得されて執筆した「Aケア」の経緯を綴った手記という形で書かれ、後半では、前半の原稿が漆原の遺稿であったこと、漆原の過去や「Aケア」報道に対する対応などが、矢倉の視点で語られている。その後半で、近未来の介護状態を描いたネット小説「C・U・C」の要約も載せられているが、その介護状態も恐るべきものだった。
痴呆老人や介護を必要とする病気の老人にはいやおうなく介護の問題が生じてくる。60代の子供が80、90代の親の面倒をみている現状だから仕方がないのだろうが、それにしては残酷だ。
介護に疲れて病人を殺害し自殺をはかる親子や夫婦、
介護を放棄し痴呆老人を置き去りにした事件、
家庭内でおこる寝たきり老人に対する虐待etc。
小説の中では収まりきれない現実の問題も盛り込まれていた。
果たして「Aケア」なる施術は、近未来本当に行われるのだろうか。
老人の本心はどうなのだろう。
五体不満足になっても、もともと麻痺して使えないモノは取ってしまったほうが楽になって、本人もよかったと思えるのだろうか。
小説の中で実際にAケア手術を受けた人にはそれだけの効果が見られたが、なにしろ見た目が悪い。両手両足に麻痺のある人はダルマのようになるのだから…。
こんな姿になっても生きたいのか。
老人たちの本当の気持ちはどうなのか。
漆原医師は絶えず自問自答を繰り返すが、こればかりは、本人でないとわからないことなのだ。
著者は作品中で「50年後には三人に一人が高齢者という時代がくる」と述べている。これは小説ではなく現実だ。
老人介護問題やケア問題も避けては通れない切実な現実の問題だ。著書中の「Aケア」問題はこれから本当に物議を醸しそうだ。
- 感想投稿日 : 2012年4月23日
- 読了日 : 2012年4月23日
- 本棚登録日 : 2012年4月23日
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