現存するサラエボ・ハガダー、こちらのサイトで多くの画像を見ることができる。http://www.talmud.de/sarajevo/textbildansicht_1.html
本書の主人公ハンナが感嘆したように、ラピスラズリをすりつぶして作られた青色の鮮やかなこと。
過越しの祭のセデルのテーブルの絵では、なるほどテーブルをはさんで向こう側に家族が座り、こちら側にただ一人、“漆黒の肌にサフラン色の長衣をまとった女性”の姿が。
奇しくも二度にわたってイスラム教徒の手によって消失の危機から救われ
たハガダー。
“イスラムの細密画家の筆”で、“キリスト教的な画風”で描かれたユダヤの祈祷書。まるで寛容と融和の象徴のようなこの本は、どのような人によってつくられたのか。そしてどのような運命を経て現在に至るのか。
時を遡り、ハガダーに関わりのあった人々の人生が、そして制作者の人生が語られていく面白さ。それは、とりもなおさずユダヤの人々の迫害の歴史を知ることでもあるのだけれど。
ラスト、ハガダーの制作者と現代のハンナが結びつくシーンでは、同時にこの祈祷書に関わったすべての人の声を聞く思いがする。
「わたしは、ここにいたのだ」と。
People of the Book by Geraldine Brooks
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
海外の小説
- 感想投稿日 : 2010年9月14日
- 読了日 : 2010年8月28日
- 本棚登録日 : 2010年8月29日
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