帰属意識をもてないということが、こんなにも人を蝕むものなのか。
理解できないものに対する恐れが、人をこんなにも残酷な仕打ちへと向かわせるものなのか。
19世紀の英国領ジャマイカ。本国の白人からは、洗練されない“二流の白人”とみなされ、母親の出自から、同じクレオールからも浮き、黒人からは“白いごきぶり”呼ばわりされるような環境のなかで育ったアントワネット。愛する母からも疎んじられ、体を傷つけるような鋭い葉も毒蛇も、“人よりはまし”と思う幼い彼女のよりどころのなさが、悲しい。
彼女が結婚した英国人男性の自己中心的なところや残忍さに、本を閉じたくなるほどの腹立たしさを感じるが、それは作者ジーン・リースの思惑通りなのだろう。
この結婚相手に作中、名が与えられていない点も興味深い。帝国主義、権威主義的な男性の象徴として描きたかったからか。アントワネットは個人の愛による救済など、端から求めていなかったからなのか。
“屋根裏の狂女”の出身がジャマイカとされた設定にこだわり、この“狂女”についての物語を書かずにはいられなかったジーン・リースの生涯にも想いを馳せたくなる。
Wide Sargasso Sea by Jean Rhys
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
海外の小説
- 感想投稿日 : 2009年6月28日
- 読了日 : 2009年6月28日
- 本棚登録日 : 2009年6月28日
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