星を掬う (単行本)

著者 :
  • 中央公論新社 (2021年10月18日発売)
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感想 : 901
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これは読むのがしんどいけどついつい物語に憑依して感情が揺さぶられ抜けられなくなってしまいました。
導入部から興味を引く展開と、はらわた煮えくり返るほどイラっとする元夫は、ハイエナのごとく骨の髄までしゃぶり取ろうと金を普請するゲス野郎。名も思いだしたくない程なのでゲス野郎でOKですね。
おとなしそうで何も言わずついてきてくれるとかが魅力で結婚したとか身勝手なゲス野郎の理由が際立ちました。
千鶴もDVで洗脳されるまま無抵抗に金を出す悪循環。なし崩しのネガティブ思考からどんどん沼に落ちてゆく。こんなゲス野郎には接近禁止命令を発動したいのに、被害をだせない程に自己否定を肯定している日常。千鶴、あんたって人はどうして保護を求めないのか、どこまで不幸を望んでいるのかってイラっとしてしまう。貪欲に幸せになること望めばいいのに、掬ってほしいってサインを見せてほしい。
そんななか、小1のとき自分を捨てた母親の消息を知る女、恵真が現れ、母親を含む3人の女性とシェアハウスで暮らすことになる。母親は若年性認知症、介護施設で働く彩子は育児放棄で離婚経験あり、千鶴の母をママと慕う恵真は1歳のとき両親を事故で亡くしたとかの悲劇の三重奏がカルテッドになって不協和音が読者に襲ってきて、町田さん盛りすぎでしょって思うほどでした。
そして、もう一人17歳で妊娠中の彩子の娘が訪ねてきてクインテッドの重厚な響きとなってそれは耳鳴りのように鳴りやまない。
他の作品でもそうですがDV、貧困、性被害、育児放棄、アダルトチルドレン等々、不穏ワードがてんこ盛りなんで耐性ついてきちゃった。
一般的には介護に認知症の問題が多いと思いますが自らの意思でグループホームへ入所を決めるとか信じられないくらいスマートな話でした。このお母さん気丈ですよね。千鶴に介護されたら共倒れになっちゃうし、親子でも独立した個人なんだから自分の足でしっかり立とうねってことですね。
困ったちゃんの千鶴には共感できなかったけど、そんな彼女の感情を丁寧に拾い上げて形にした根気強さには感心しました。

【追記】
他人の不幸は蜜の味とゆう言葉がありますが、ドイツ語ではシャーデンフロイデなる感情らしいのですが、つまり「他人の不幸を目にしたとき感じる喜び」を表すらしい。
例えば家族が病気になったときそれを感じないのですが、他人がミスしたり、成功してる人が失敗したりするときふとそれを感じてしまう。
おそらく、生計を共にしてる者が不幸になれば自分にも少なからず害が及ぶから笑っていられないのじゃないかと思うのですが、他人なら影響ないから冷笑できるのだと自分の中に潜む邪悪な影の存在に呆れたりするんですが、そんな垣根を取りはらって、生きるのに不器用な人たちの立場も理解して喜びをわかちあうことに注目できたらいいなって感じました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 図書館
感想投稿日 : 2024年3月26日
読了日 : 2024年3月26日
本棚登録日 : 2024年3月28日

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