インテリアからランドスケープまで、空間を考えるときにはどのスケールに着目するかが大切になってくる。この本では特に「街並み」――都市と建築の中間スケール――に焦点を当て、美しい街並みをつくるためにはどうしたらよいか具体的な事例をもとに提案している。
著者はヨーロッパの街並み、特にイタリアの囲郭都市(周囲を城壁で囲まれた都市)を街並みの理想とし、なぜそれが美しいのかを非常に論理的に分析・考察している。それによると日本とヨーロッパの生み出す景観の違いの最大の原因は、「内部と外部を区切る境界設定の違い」にあるらしい。
日本では建物としての家について内と外を峻別して考えるが、ヨーロッパ的思考では峻別されるのは個室まで狭まり、家の共有空間や前庭、面した道路などは全て外となる。しかしここで重要なのは、ヨーロッパモデルでは都市の最外周部に確固たる城壁があるために、先ほど外と分類した街路などが全て「都市の内部」として認識されることだ。それゆえ街路を美しく整備し利用することは住人自らの関心事であり、街並みを乱すものは自然と排除の圧力を受ける。
またヨーロッパにおいて街路が積極的に利用される背景として、「入り隅みの空間」の存在を指摘している。これは二つの壁と地面が交わる隅に生じる空間で、ほどよい閉鎖性が安心感と親密さを与えるという。組積造の壁面が連続するヨーロッパ式街路(あるいは広場)では何処にでも生じうる空間であるが、隣棟間隔が大きい日本あるいは近代の都市では成立しにくい。「入り隅み」をこのような都市でも実現する有効な手法として、ニューヨークはロックフェラー・センターの前庭に採用されている「サンクン・ガーデン(sunken garden)」を紹介している。
美しく活気ある街並みをつくるためにどうしたらよいか、明確な論理で分析しており分かりやすい。「Ⅱ.街並みの構成」で検討されているトピックは先述した「入り隅みの空間」をはじめ「D/H 幅と高さの比率」「第一次輪郭線と第二次輪郭線」「俯瞰景」など重要かつ実用的である。非常に面白く読めた。
しかし幾つかは気になった点もある。
一つは筆者があまりにヨーロッパの街並みを「理想」として見過ぎている点だ。ヨーロッパのそれが素晴らしいのはよしとしても、それが日本(ひいては東洋圏)において成立しなかったのはそれなりの理由があるはずである。それは気候に根差したものかもしれないし、そこから生まれた文化・慣習由来するのかもしれないが、いずれにしても向うのものをそのままこちらでも再現しようとするのはヨーロッパ・コンプレックスが過ぎないだろうか? 現状を肯定したうえでそれを昇華させていくアプローチも必要だ。
二つ目、これは一つ目と比べると些細なことかもしれないが、情報が古い。なにせ初出が1979年であるためイランがパーレビ王朝だったりする。三十年以上を経て、世界の街並みはどう変わってきたか、現実にキャッチアップしなければならない。
いずれにしても古典・名著であることは間違いない。建築系・都市工学系の学生には是非とも勧めたい一冊だ。
- 感想投稿日 : 2011年4月19日
- 読了日 : 2011年4月18日
- 本棚登録日 : 2011年2月17日
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