たかが英語!

著者 :
  • 講談社 (2012年6月28日発売)
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楽天が社内公用語を英語にするという発表をした後にはてんやわんやの大騒ぎだったことをおぼえております。本書は代表である三木谷氏が自らそういった声に答え、自らのプロジェクトの進行具合を世に問うものです。

本書は献本御礼。

楽天とユニクロを展開するファーストリテイリングが社内公用語を英語にするというニュースを聞いたときには賛否両論の大騒ぎになったことを思い出します。本書は渦中の人物である楽天の三木谷氏が自社での英語化の取り組みと日本における英語教育に関する提言をしたものです。

実はこの記事を書く前に成毛眞氏の『日本人の9割に英語はいらない』を再読して楽天とユニクロの社内英語公用語化に関するところを見てみると「自分が取締役だったら真っ先に逃げ出すだろう」というまさにミもフタもない批判からはじまってそのあとはもういいたい放題の「成毛節」でしたが、本書でそれらの意見にも反論する形をとっており、そういった意味でも読んでよかったなとは思いました。

確かに日本人の9割に英語は要らないのかもしれませんが残りの1割は英語はいる。楽天はその1割になろうとしているのだな、という印象を持ちました。ただし、ここで言う英語とは外国の人間とシェイクスピアやアリストテレスについて自分の見解を述べよ、というものではなくてあくまでもビジネス英語、グロービッシュとのことなんだそうです。あまり詳しいことはかけませんが、僕の見聞きした話によると、ビジネスそのものでいえばジャニー喜多川よろしく「YouはDreamをHaveね」というちゃんぽんイングリッシュでも極端な話、ビジネスはできます。しかしここでいう「グローバル企業」になるためにはそういうわけにもいかないでしょう。

そういうことで楽天は社内プロジェクトとして筆者いわく「僕は予感した。これは、かつて日本で行われたことのない実験になる。7000人以上の日本人が、2年間で英語をマスターするなんてことが、本当に実現できるだろうか。僕は狂っているのかもしれない。しかし、この実験を成功させることでしか、楽天も、そして日本も生き残れないと思った。さあ、実験開始だ」ということで大胆な決断に踏み切ります。

グローバル=英語とは一概には言い切れないと個人的には思っておりますが、英語が出来ないよりはできたほうが少なくとも世界は広まります。例えば、徒手空拳の自分でも英語ができさえすれば、もしくはグーグルなどの翻訳ツールを補助として使いこなすことさえできれば例えばアメリカ大統領に対してでもツイッターなどで直接意見が言えるわけです。

それはさておいて、最初は英語習得時に関する費用は三木谷氏が「身銭を切ってこそ」という信条から負担はしなかったのだそうです。それに関してもベンチャー企業の過酷な業務に加えてビジネス仕様の英語をまさにイチから習得する…。社員の苦労が行間からにじみ出てくるような話から、後に新入社員のために業務につかせず給料を払って英語を学習させ、さらには成績不振者には語学留学をさせるなどの話を読んでいるときには 「三木谷さん優しいなぁ」という思いと、そこまで会社としては本気なんだな、ということをことの是非は別として感じることができました。

以前、佐藤優氏の『紳士協定 私のイギリス物語』という本で、彼がイギリスはベーコンズフィールドにある陸軍語学学校の過酷なまでの英語学習のエピソードを聞いているので、余計にそう感じたのかもしれません。結果に関しては発展途上ながらも三木谷氏にとってはおおむね満足できるようなものが出たらしく(だから本書を書いたわけですが)日本の英語教育について後半述べられている箇所については僕にとって思春期の前に英語を学習させるや英語の試験は全てTOEICにさせるという箇所については正直『どうだろうか…』という疑問が抜けませんでした。

これに関しては作家で同時通訳者の米原万里さんなどが主張する『複数の言語を人生の最初に学ぶとどちらも中途半端になる』という考え方を僕は支持したいですし、仕事の上では英語を使うのもアリなのかもしれませんが、ある程度それは日本語を土台としての話だと僕は思うのです。おそらく、楽天に入る人間は(会ったことがないので想像で書きますが)学歴社会で言うところの「エリート」であろうと想像せられますし、それに関しては問題がないのでしょう。

楽天が扱っているビジネスもインターネットというスピードありきの世界で翻訳に頼らないで発信されているホットな情報を知り、自分たちのビジネスに活かしていくには英語というツールは不可欠なものなのかもしれませんが、ここで書かれていることを9割の日本人がそのままとりいれることができるか?ということにつきましては若干の疑問符がつくと思われます。ただ、僕は楽天のやろうとしていること自体については否定も肯定もしまい、と心に決めて筆を擱かせていただきます。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2013年4月20日
読了日 : 2013年4月20日
本棚登録日 : 2013年4月20日

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