どうで死ぬ身の一踊り (新潮文庫 に 23-5)

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  • 新潮社 (2012年9月28日発売)
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感想 : 12
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本書は作家、西村賢太氏の第一作集です。同人誌時代の処女作「墓前生活」、商業誌初登場作の「一夜」を併録した物となっており、西村文学の原点を思わせました。それにしても1年もよく持ったものだと思います。

本書は表題作のほかに、同人誌時代の処女作「墓前生活」に加えて、商業誌初登場作の「一夜」を併録した、 西村賢太氏の第一創作集です。やはり、処女作には 作家のすべてが含まれるというのは本当のことらしく、西村賢太文学の要素がほぼ完全に詰まっていると思っております。

梅毒の末期症状で脳をやられ、芝公園で凍死するという悲劇の最期を遂げた作家、藤澤清造に魅了された『私』(=のちの北町貫太)は藤澤清造の出生地である能登七尾を頻繁に訪ね、彼の菩提を弔う寺から、位牌と木の墓標を受け取る様子が『墓前生活』に描かれ、果ては彼の隣に自分の墓まで作ってしまうという一種の狂気が伺えます。そこには歿後弟子を自認し、彼の全集を個人編集で出版しようという強烈なまでの『思い』から来るのでしょうか?

しかし、表題作の中には彼のもうひとつの側面。同居している女性に暴力をふるい、罵声を浴びせ、さらには彼女を通して全集のためだからと300万円もの金を引っ張るという、まさに『藤澤清造のためなら何でもまかり通る』かのような暴君振りが延々と描かれます。女(=後の秋恵と思われる)はそれでもけなげに文章の構成を手伝ったり、家計を支えるためにレジうちのパートに出かけ、かいがいしく彼のために世話を焼く姿がどうもいじましくて…。しかし、『私』はカツカレーを食べる様子を「ブタみたい」と軽口を言われるようなそれこそ些細な理由で烈火のごとく怒り、彼女を罵倒し、打ち据え、挙句の果ては骨まで折るような暴行を彼女に加えてしまいます。

彼女が愛想をつかして出て行くと一転、戻ってきてほしいと哀願する姿は典型的な『ダメ男』のそれで、僕はその姿に大笑いしつつも、自分の中にもそういう部分が少なからず存在するからこそ、彼の小説に共鳴するのではないかと、そんなことを思ってしまいました。巻末にはこの小説について久世光彦氏の書評が収録されているのですが、それも非常に面白く。本編を読んだ後に読むと『そうだよなぁ』と納得がいくのでした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2013年6月15日
読了日 : 2013年6月15日
本棚登録日 : 2013年4月2日

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