シモネッタの男と女

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  • 文藝春秋 (2010年8月11日発売)
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感想 : 15
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イタリア語通訳者の筆者がイタリアで日本で、著者が出会った忘れえぬ男女―“シモネッタ”がとらえた人間劇場のユーモア&ペーソス!をつづったエッセイです。しかし圧巻は盟友・米原万里を追悼するくだりでした。

シモネッタこと田丸公美子女史のエッセイです。ここに描かれているものは彼女がイタリアで知り合った男女のことで、女同士の友情あり、2人のイタリア女性を手玉にとって「ウタマロ」の名を冠した日本人男性のお話や、エステサロンの女王といわれたある女性の恋をはじめとする6編のエッセイが収録されております。

その中でも圧巻だったのは癌で他界した盟友の故米原万里にささげたエッセイで、僕は佐藤優→米原万里→田丸公美子の順番で著作を読み進めてきていますので、なんとも感慨深いものを感じました。出会いから交友、通訳から作家へと緩やかにステージを変えた盟友の見つめるまなざしが暖かくこういう人と後何人出会えるか?ということを考えさせられました。

僕の考えるハイライトはやはり、米原万里さんが闘病をする箇所で、あらゆる治療法を試し、万策尽きて抗癌剤治療を施すという決断を筆者に言う場面にはページをめくる手が鈍りました。これは、佐藤優さんの本に詳しいのですが、自らの運命を覚悟した彼女が病床に佐藤優氏を呼んで、
「仏教が無心論者であるということを納得の行く形で説明してくれ」
というお願いをしていたお話はこうしてみると、最後まで彼女は自分を貫いて逝ったのだなぁと感じました。

少し、説明を加えると、彼女が彼女も両親ともども無神論者で、葬式は無宗教で済ませたのですが、彼女が気に入るような無宗教の霊園が見つからず、自宅近くの真言宗の墓に決め、両親とともにお墓に入るには真言宗にのっとって葬儀を行わねばならず、それが自分の信念と矛盾していないか、という確認をしていた、という箇所に改めて彼女の精神力の強さに衝撃を受けました。

この本で筆者は自分が下ネタを飛ばしていたのはひとえに米原万里の笑うところを見たかったからだ。という箇所があり、まだまだ彼女の「シモネッタ」振りが見たい反面、大事な人が旅立ってしまうということは残されたものに大きな喪失感を抱かせるのだということを改めて思い知ったしだいでございました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2012年2月13日
読了日 : 2012年2月13日
本棚登録日 : 2011年10月27日

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