自分の価値観の源流を、あなたは説明できますか?
正義や哲学と聞くと大仰な印象だが、そんなに身構える必要は無い。本書では、私達が育つなかで培ってきた価値観(何が良いのか、悪いのか)について、「何故そう思うのか?」を、トロッコ問題のような例え話や、実際に起きた事件を例に深堀りしていく。
私達は日々身の回りに起こる事象に対し、良い事なのか悪い事なのか判断したり、印象を持ったり、行動に移したりしている。マスクの転売、性による差別、過去の戦争行為を現代の人は謝罪すべきか?等々…大抵の人は、「どう思うか(良い/悪い)」については即答できても、「何故そう思うのか?」明快に即答できる人は少ないのではないだろうか。
私達は、それを自分で説明できなければならない。何故なら、私達は相互に(物理的にも、精神的にも)影響を及ぼす社会に属しており、それぞれの価値観は多種多様だからである。また困ったことに、私達は自分の価値観の正当性については、無意識に全肯定しがちである。つまり、隣人に、自分とは全く異なる価値観でナチュラルかつ躊躇なくぶったたかれる事件が頻発する。年収マウント、町内会行事の暗黙の強制参加から、夫の「お~い、お茶」まで…私達は好き/嫌いの水掛け論ではなく、論理的な説得によって、相手や周囲を説得しなければならない。
また、それぞれの事象から法則性を見つけ出して言語化することは、自分の価値観の整理にも役立つ。私達はそれぞれの事象に遭遇した時に断片的に、それは良い/悪いを判定しているので、類似の事象を検討することで、自分の価値観に一貫性をもたせたり、意識してなかった法則に気付くことができる。例えば、価格自由競争を肯定する人が災害時の便乗値上げに反対する場合、これは別のルールの影響によるものだろうか。または、整合性を維持するために持論を矯正しなければいけないのだろうか。
学問とは、学び、問うと書く。日常の表層的な忙しさから一歩距離を置いて、自分の価値観を形成する要素を考察する一助として欲しい。
追伸。本書はハードカバーなので、それなりに読む難易度が高いのも事実である。別書籍の紹介になるが、『ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業』は本書の内容を対談式にまとめたものなので、導入としておすすめしたい。また活字恐怖症の人は(今この文章を読んでいる人が、どれだけ該当するかは分からないが)、youtubeのハーバード大学のアカウントに動画(別途、日本語字幕/英語字幕を表示できる)が投稿されているので、是非視聴して頂きたい。
- 感想投稿日 : 2021年6月17日
- 読了日 : 2021年6月17日
- 本棚登録日 : 2021年6月17日
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