世界史において「愚策であった」と思われる政策や決断について、その原因を明らかにしようと試みている本。内容も論調も決して読みやすいものではないですが、時代も地域も異なる中でなぜ「愚行」がなされたのかを知ることができます。
著者は政策の愚行を規定するため、「当時の視点から見ても益とならないもの」「実行可能な選択の道が残されていたもの」「個人の政策ではなくグループの政策であったもの」を基準として挙げています。そのうえで、この上巻では「トロイア人が木馬を城壁内に入れたのはなぜか」「教皇庁はなぜプロテスタントの分離を招くような行動を繰り返したのか」「イギリスはなぜ植民地としてのアメリカを失うような行動をしたのか」が取り上げられています(イギリスについては途中で終わっており、残りは下巻へ)。
これらのテーマにおいて、登場人物たちの愚行の原因は現代でも馴染みのあるものばかり。トロイアについては自己の勝利に対するのぼせあがりがキーワードであるかと思われます。教皇庁については、一人ではなくこの時期の一連の教皇たちがそれぞれに私利私欲の追及・優柔不断・やるべきことの無視・エゴ・頑固さ・放蕩・自身の権利と身分が不可侵であると思い込むことなど、様々な性質の愚行を並べたことで事態が急激に悪化していったことが見て取れました。アメリカの独立に関しては、上巻ではまだ論の途中でイギリスの愚行について詳しくは分かりませんが、アメリカが本気でイギリスからの独立を望んでいたわけではなかった、というところまでは論じられています。
特に教皇庁の愚行の原因については、250ページあたりで総括されていますが、現代の様々な愚行・失敗にも当てはまるものだと思います。そのあたりを読み、学ぶというだけでも読む価値はあるかと。
- 感想投稿日 : 2015年12月31日
- 読了日 : 2015年8月13日
- 本棚登録日 : 2015年12月31日
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