翻訳者、片岡義男氏と鴻巣友季子氏が7つの作品の書き出しの数段落をお題にし、それぞれが訳した文章や表現について語り合うという趣向の本。選ばれている作品はジェイン・オースティン『Pride and Prejudice』、レイモンド・チャンドラー『The Long Good-bye』、J・D・サリンジャー『A Perfect Day for Bananafish』、L・M・モンゴメリー『Anne of Green Gables』、トルーマン・カポーティ『In Cold Blood』、エミリー・ブロンテ『Wuthering Heights』、エドガー・アラン・ポー『The Fall of the House of Usher』。
半分ぐらいは邦訳版を読んだことがあったけど、このお二人が訳すと既刊の邦訳書とは全く違った趣になり、翻訳次第で作品の雰囲気も受け止め方も大きく異なるんだな、ということに気づかされます。片岡氏は言葉に忠実に、でも削るべきは大胆に削る印象があり、鴻巣氏は原作から逸脱しない程度に自分なりの解釈を少しだけ滑り込ませる、という感じ。一方、タイトルも各自が訳してますが、片岡氏は本文の訳で遊ぶことが少ない分、タイトルで独自性を出していて、それもまた面白い。
また、冒頭に「透明な翻訳」とは何か、というテーマの議論があり、それも面白かった。曰く、日本の「透明な翻訳」とは「訳者が隠れ、原著が透けて見えるもの」であり、欧米では逆に「原著が消え、最初からその言語で書いてあったように読めるもの」らしい。日本では訳者ならではの味付けや言葉の選び方は不要だということ。ただ、この考え方も村上春樹のような熱狂的ファンを持つ作家兼翻訳家には当てはまらないのでしょう。実際、村上春樹版のチャンドラーやフィッツジェラルドはちょっと独特な表現が多く、クセの強さが目立ちます。それが良いという人もいるのでしょう。
お題として選ばれている作品には、それぞれに特徴的な表現が入っていて、英語を読んで自分なりに翻訳してみるのも楽しいです。各自の英語力、それまでに読み慣れてきた文章の種類、各作品のテーマにもよると思いますが、個人的にはチャンドラーやモンゴメリーは非常に読みにくかったです。
- 感想投稿日 : 2017年12月17日
- 読了日 : 2017年11月28日
- 本棚登録日 : 2017年12月17日
みんなの感想をみる