絵画の領分: 近代日本比較文化史研究 (朝日選書 412)

著者 :
  • 朝日新聞出版 (1990年10月1日発売)
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感想 : 3
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<a href="http://1sugi.cocolog-nifty.com/toybox/2006/12/post_dfb6.html" target="_blank">巡回先のブログ</a>で取り上げられていたので取り寄せて読んでみた.
実に気合の入った力作論文満載で読み応え充分,ややゴシップめいたエピソードも適度に入れてあって631ページの大部をして退屈させない.
しかしなんだね,日本人ってのは,たとえ専攻が「洋画」であっても行動パターンが家元制度そのまんまで,洋画の新旧派の角逐とかミュンヘン派だとかパリ派だとか外光派だとかバルビゾン派とか,やることは古今伝授や華道茶道の免許や日舞の名取の暗闘と変わらないまま今でも営々とやってるよなぁ.タコツボの中で小物同士が潰し合うのが大好きという癖は百年経っても変わらないのかねぇ.

もうひとつ不思議なのは,この留学生たちは何で揃いも揃って西欧美術の20年遅れを大事に抱えて帰朝してくるんだろうという疑問.例えば高橋 由一でさえ Cezanne よりやや年上だけどキャリアは同じ位で Manet とほぼ同年輩.黒田 清輝なんか Seurat より年下で Matisse と同年輩(!),浅井 忠は Gauguin と同年輩で辛うじて同時代っぽいけど,岸田 劉生に至っては Duchamp より若くて Man Ray と同じくらいなんじゃないだろうか.本場に学んで来たにしては,どう見ても20年か下手すりゃ半世紀古い.もっとも岸田 劉生は留学してないか.
まぁ学校で習う教程は常に因循なものだからそのくらいのタイムラグがあって当然だろうが,パリのベル・エポック,まさに現代絵画誕生のその時その場所に居あわせながら,何を観て誰と付き合って来たんだろうなぁこの人たちゃぁ.流行に盲随するのが良いとは言わないが,少しは同時代性ってもんを意識することは無かったんだろうか.

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本・雑誌
感想投稿日 : 1999年12月31日
読了日 : -
本棚登録日 : 1999年12月31日

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