白光

著者 :
  • 文藝春秋 (2021年7月26日発売)
3.70
  • (27)
  • (63)
  • (51)
  • (3)
  • (5)
本棚登録 : 600
感想 : 63
3

日本人初のイコン(聖像画)画家・山下りん。
幕末から昭和初期にかけて激動の生涯を描いた物語です。

笠間(茨城県)の下級武士の娘・りんは絵師になりたい一心で、実家を飛び出し単身東京へ向かいます。
師を転々としながらも工部美術学校に入学し、西洋画を学ぶことになったりんは、ある時級友の政子に連れていかれたロシヤ正教会でニコライ主教と出会い、その縁でロシアに絵画留学することになりますが・・・。

我が強くて、しょっちゅう周りと衝突しがちなりん。
それは留学した先のロシアの修道院でも同じで、自分が求めた芸術性と異なる聖像画の模写をしたくない為、指導担当の修道女に食ってかかり、挙句思い通りにいかないストレスで身体を壊して志半ばで帰国という展開に、会社や学校といったガチガチの管理社会にいる現代人の我々の方が納得いかないことへの耐性はあるかも・・って思っちゃいました。(ま、こんな耐性無くてもいいのですけどね・・)
そもそも、一応洗礼は受けているとはいえ、ルネサンス的な“西洋美術”学びに来たというスタンスのりんと、まずは信仰があることが大前提で、“信徒”としての聖像画師を育成したい修道院側との、お互い「思っていたのと違う」という意思の祖語があったのが不幸の元だったようですね。
とはいえ、“だが、情熱はある”(ドラマ観ていませんが‥汗)という感じで、絵画に対する熱意は強く持っているりんですので、帰国後は聖像画を描く上での信仰心が足りなかった事をちゃんと反省して、一旦は聖像画から離れるも、再度心を入れ替えて聖像画家として、熱心に創作に励むようになり、時代的に色々大変な事があったものの、穏やかな晩年で何よりでした。
本書は勿論フィクションですが、時代背景や人物描写がリアルに書かれていて、この時代を共に生きたような読み応えがありました。
同じキリスト教でも、カトリックやプロテスタントに比べて馴染みの薄い東方正教会ですが、聖像画の捉え方・・所謂“世俗芸術”との違い等は興味深いものがありました。“ニコライ堂”にも行ってみたいですね。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 2023年読了分
感想投稿日 : 2023年5月5日
読了日 : 2023年5月5日
本棚登録日 : 2023年5月5日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする