昭和40年代。敗戦の失意から立ち直り、大量生産・大量消費・いけいけどんどんだった高度経済成長の最中にある日本。大衆の娯楽、希望の光はプロ野球だった。今や地上波で放送されることのほとんどない野球中継だけど、本著を読むといかにその人気がすごかったか少し想像できた気がする。
長島茂雄といえば、「あの呂律のまわってないおじいさん?」くらいの感覚でしかなかった(ごめん)けど、プロ野球人気を激しく支えていた、らしい。イチローの記録のほうがすごいやんとおもってまうけど、きっと記録より記憶に残る選手やったんやろう。うちの両親は阪神ファンやけど。
恵まれた体躯と野球センスを持つ野球少年・ノブオ。しかしその家庭環境は、決して恵まれたものではなかった。物語は彼の父親の失踪シーンから始まる。ノブオ、小学2年生の頃の話である。母親は子に無関心で、金に汚い。大事に取ってあった長島の記事の切り抜きノートをめためたにしてしまうシーンなんかは、胸糞悪いったらありゃしない。親友でありライバルだったナルシゲくんとは、大人の勝手な行動で別れを余儀なくされる。中学生にいじめられたり、野球チームでも理不尽な扱いを受けたり、失恋したり、踏んだり蹴ったりである。
これはグレるやろ、と思うけど、彼には長島がいた。否、彼は長島だった。長島であることで、崇高な精神を持ち、困難に立ち向かう勇気を持てる。こどもの頃の、「何にでもなれた感覚」の尊さを思い出し、鼻の奥がツンとした。
母親のクソっぷりは変わらないままだし、ノブオくんの今後はもっと苦しい出来事が起こるかもしれない。「諦め」を知るのも時間の問題かもしれない。でも、物事をまっすぐ見る眼差し、長島の精神だけは失わないでいてほしいと願わずにはいられない。
- 感想投稿日 : 2016年10月1日
- 読了日 : 2016年9月30日
- 本棚登録日 : 2016年9月29日
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