死神の浮力

著者 :
  • 文藝春秋 (2013年7月30日発売)
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 待っていました。死神千葉さんの長編。千葉さんが口を開くたびに、(また変なこと言うぞおー)とワクワクしてしまいました(笑)

 ・「武家諸法度」のことを帽子の仲間だと間違えている。(武家諸ハット)
 ・「海のものとも山のものとも」と言った美樹に続いてすかさず、「海の幸とも山の幸とも」という。
 ・「この女はデスクと喋っていた。机か、上司とだ」
 ああ、面白い!!素敵だ、千葉さん。

 娘を殺され、その犯人を追う夫婦。犯人は25人に1人の、良心を持たない人間。ちなみにこの「良心を持たない人間」も、千葉さんにかかれば
「両親がいないのか。そんな人間がいるのか」となるわけですが。

 良心のないキャラとは、本当に怖いキャラだ。相手に同情したり、自分に置き換えて相手の気持ちを考えたりするという概念がないから、とことん非道になる。終盤近くまでずっと、その良心のない、犯人のペース。犯人を追う山之辺夫妻は、何度も何度も窮地に陥る。しかし、その窮地をその都度救うのが死神の千葉さんというのがよかったです。

 「決着をつけないと音楽が聴けないようだからな。後ろに乗れ」
 終盤での千葉さんのセリフ。本当に素敵。人間なんて、ビジネスの対象でしかなくて、そいつが死のうが生きようが、笑おうが泣こうがどうでもいいというスタンスを貫く千葉さんだけど、結果として山之辺夫妻を助けている。それも素敵でした。

 こんなに苦楽を共にした山之辺さんにも一切感情移入せずに仕事をやりぬく千葉さんは、もはやあっぱれでした。どんな時でも、音楽だったし。

 この本を読んだあとは、ついつい自分の周りの初めまして、の人の中に、死神千葉さんがいないか探してしまいます。できれば、私も、千葉さんとあのずれた会話がしてみたいです。
「それは意味が違いますよ」って苦笑いしながら言ってみたいです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 伊坂幸太郎
感想投稿日 : 2013年9月16日
読了日 : 2013年9月9日
本棚登録日 : 2013年9月16日

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