負け逃げ

  • 新潮社 (2015年9月18日発売)
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本棚登録 : 102
感想 : 16
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想像以上によかったので驚いた。
R18文学賞は選考委員が変わって、また賞自体の雰囲気もがらりと変わってしまってから、わたしの肌に合わず敬遠していたのですが、なんとなくきになりこちら手に取ったところ、ずっとずっと良かったので驚いています。
たとえるなら山内マリコさん+窪美澄さん。「ここは退屈迎えに来て」+「ふがいない僕は空を見た」って感じ。つまりいいとこどりです。
町というのも恐れ多いくらいの田舎町に住んでいる高校生とその周りの保護者を視点に動く連作短編小説。
デビュー作の第一章:僕の災いから始まるのだが、この章はまぁわりと普通。秀でたものはとくにないのだが、第二章以降から秀逸。とくに第二章:美しく、輝く、第四章:兄帰らずがなかでも素晴らしかった。
第二章の漫画家志望の真理子と同じく漫画家志望のクラスで端っこにいる美輝とのやりとりは、うわーーーーーと叫びたくなるなにかと、心臓をぎゅっとひねられる痛みがあった。ラストが意地悪すぎて、悲しすぎて、その後の美輝がすごく気になる。(真理子はほかの人の章でもちらりとでてきたのだが)
※特設サイトで第二章読めます。(2015年10月現在)
https://www.shinchosha.co.jp/wadainohon/339551/
また第四章は高校2年生男子の葛藤を描いているんだけど、ほんとギリギリ。SMだとか、妄想の中だけで好きな人にひどいこと、犯したりなぐったりして射精するとか、それ以外にも家族間がギリギリすぎて切なかった。目頭熱くなった。

閉鎖的な村と呼べるような町のなかでの人間関係がとにかく生々しい。わたしは東京都で生まれ育ったので想像の範囲でしかないが、2種類に分けられるのだろう。ここから出たいと切望する人間と、出ないと決めた、あるいは出れない人間とに。

唯一残念だなと思うのは本のタイトルセンス。個人的には“負け逃げ”は全然しっくりしないし、タイトルで幾分損してる感、否めないな。
今後このままの作風で勝負してくるのかわからないけど、二番煎じ感ぬぐえてないし、センスは山内マリコさん、筆力は窪美澄さんのが格段上なので、次回作どう出てくるのか楽しみです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: こざわ たまこ
感想投稿日 : 2015年10月22日
読了日 : 2015年10月22日
本棚登録日 : 2015年8月18日

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