普及版 モリー先生との火曜日

  • NHK出版 (2004年11月21日発売)
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難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患う大学の恩師、モリー先生の元を、スポーツコラムニストとして活躍する著者が毎週火曜日に訪れ、人生について、愛について、死について語り合う。著者とモリー先生との最後の講義を綴ったノンフィクション。

著者のミッチは大学でモリー先生の社会学の授業を受ける。合理性や金だけが重要視される当時のアメリカで、人と人とのつながりを大事にすることを説くモリー先生の授業に感動した彼は、夢と希望を胸に卒業したのだが、待っていたのは厳しい現実だった。
夢をあきらめ、時間を削って金を稼ぐ自身の生活に引け目を感じ、卒業後一度もモリー先生の元を訪れることがなかったミッチだが、モリー先生がALSを患ったことを知り、十数年ぶりに会いに行く。

自分が先生と同じ境遇になったら、やれなかったことを列挙して悲しくなるのではないか、と話すミッチに、モリー先生はこういう。人間はいつ死ぬかわからないのに、現代では自分が死ぬ間際でないとそのことに気づかない。いつだって今日死ぬかもしれないと思いながら生きていると考え方も違ってくるのではないか。

モリー先生はまた、こうも言う。いかに死ぬかを学べば、いかに生きるかも学べる。いずれ死ぬことを認識すればあらゆることの見方ががらっと変わる。現在時間を費やしている様々なことのうち、大切なこと、これまでしていなかったもっと大切なこと(精神的なもの)が見えてくる。

先日読んだ『死の講義』という本にも同じようなことが書かれていた。どのように死ぬかを考えることは、どのように生きるかを考えることと同じだと。確かに、日頃から自分の中の芯のようなものを意識していれば、どのような状況になってもぶれることが少ないのかもしれない。

先のことを考えてつらくならないのか。
これに対するモリー先生の対処方法は、「経験から自分を切り離す」こと。まずは恐怖や苦痛の感情に頭からどっぷりつかり、その感情をくまなく経験する。そのうえで、意識的にその感情から離れるのだという。
これはある程度の訓練が必要かもしれないが、モリー先生のような境遇でなくとも誰でも実践してみるのがよさそうだ。

ALSというと、2019年に起きた京都ALS嘱託殺人事件が記憶に新しい。当時、報道を見ながら、もし自分が彼女の立場だったらどうするか、ということを繰り返し考えた。この本を読むにあたって、彼女のことも考えながら読んだが、モリー先生と彼女では、発症した年代、性別、当時の環境などが違うので、ALSという難病に向き合った人の話、として読むより、人生の先輩から生き方のヒントをもらう話、ととらえる方がよいように思う。

「死で人生は終わる、つながりは終わらない」
死んだらどうしよう、と考えるのではなく、今を大切に生きること。大切に思う人を愛し、与えられるものを与えること。そうして得たつながりは、きっと終わることはないのだろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 人生
感想投稿日 : 2021年9月12日
読了日 : 2021年9月10日
本棚登録日 : 2021年9月12日

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