日本の出版用紙の約4割を担っている日本製紙石巻工場は、2011年、東日本大震災による津波で甚大な被害を受けた。本書は、単行本や文庫本、コミック本などの出版紙に使われる紙を造っている8号抄紙機、通称「8マシン」を震災からわずか半年で復興させた石巻工場社員たちの奮闘を描くノンフィクションである。
メディアから流れてくる情報や現地で見聞きした情報で、震災当時のことを少しくらいは理解していると思っていた自分の想像力のなさが恥ずかしい。
大切な人を失うつらさだけではない、自分の命を守るために助けを求める声を振り切って逃げる苦しみ、これまで築き上げてきた日常を一瞬で壊されたときの喪失感、明日からどうやって暮らしていけばよいのか、先の見えない不安など、体験した者でないとこの苦しみはわからないだろう。本書を書いた佐々涼子さんも震災を体験していないわけで、自分が完全には理解できないことを感じつつ、当事者以外の人にも当時の状況を伝えるにはどう書けばよいのか非常に悩んだのではないかと思う。
日本製紙石巻工場を復興させ、大きな煙突から白い煙をたなびかせることは、社員たち自身の復興のよすがでもあった。津波によって運ばれた瓦礫や泥を少しずつ掻き出して掃除し、電気を通し、機械を整備する。気の遠くなるような作業を経てできあがった紙で、私たちがなにげなく手に取っているたくさんの本が造られている。昔に比べて本が軽く、紙質が格段に良くなっていること、それらが私の住む地域から遠く離れた製紙工場で少しずつ改善され、つくられてきたこと、そのことに全く意識が向いていなかった。
元日に能登沖で大きな地震があり、今現在、苦しい思いをしている人がたくさんいる。東日本大震災の復興も終わったわけではない。当事者の人たちの苦しみを理解することには限界があるかもしれないが、それでもこのような本を読んで、自分の意識の範囲を少しでも広げることに意味はあるのだと思う。
- 感想投稿日 : 2024年4月1日
- 読了日 : 2024年3月13日
- 本棚登録日 : 2024年4月1日
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