学術書を読む

著者 :
  • 京都大学学術出版会 (2020年10月10日発売)
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感想 : 59

本書で述べている学術書とは「専門外」の学術書である。
本書を出版している京都大学では専門外の学術書を読む読書会を開催しており、近ごろの学生が専門外の専門書を選ぶことが難しくなってきている、という事実に気が付いたことが本書を刊行するきっかけとなった。大学では一般教養がどんどん軽視され、専門外の知識を得る機会が減っているうえ、多くの書籍や論文に簡単にアクセスすることが可能になったため、情報量が多すぎて取捨選択が難しい、というのが主な要因である。

本書では、「専門外」を①遠い専門外の本②近い専門外の本③古典④現代的課題を歴史的視野から見る本、の4つのカテゴリに分けている。
①は人文・社会科学系の学部なら科学史、自然科学系なら社会文化史の専門書で、厚手の概説書。
②は挙げていけば幅広く、当然対象となる専門書も膨大な数になるが、選ぶコツとして、「大きな問い」のある本、対立を架橋する本(自分と違う意見の本)で、自論も完全ではないということを理解している本であることが挙げられている。
③は読んで字のごとくだが、必要な理由としては「異なる専門領域を超えてともに現代の諸問題に取り組むための共通の知識であり、議論にあたって共有すべき価値観を作っていく上での、いわばメタ知識(上位の知)となる」ことを挙げている。
④は、具体的には現代的課題が元はどのような原因で発生したのか、当時の人はどう考えたのかを意識している本、ということで、巻末の参照文献のリストにできるだけそのような視点が見えるものを選ぶ際のポイントとして挙げている。

最後に本書では、研究者や学術機関の評価において、特定のメジャーな学術雑誌に掲載された論文の数が指標となっていることから、近年「速読」「多読」により効率的に情報収集を行う傾向や、わかりやすいものを選ぶ傾向にあり、その結果物事を総合的に見ることができず自分の信じたい情報だけを選んでしまう「確証バイアス」に陥る可能性について警鐘を鳴らしている。

文章は簡潔で枚数も100頁ちょっとと多くないので読みやすい。主に学術書を読む学生や研究者に向けた内容の本だが、比較的手に取りやすいおすすめの専門書をいくつか挙げてくれているので、一般の人でも参考になる。何よりも、幅広い分野の本をじっくり読み、教養を持つことの重要性を改めて感じさせてくれる良い本だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 読書論
感想投稿日 : 2021年2月22日
読了日 : 2020年12月28日
本棚登録日 : 2020年12月28日

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