ディケンズ短篇集 (岩波文庫 赤 228-7)

  • 岩波書店 (1986年4月16日発売)
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ディケンズといえば長篇小説のイメージがあるけれど、短篇小説もたくさん書いている。この短篇集の特徴としては、①超自然的で、ホラーとコミックが奇妙に混在している。②ミステリー的要素が強い。③人間の異常心理の追求の三つを中心に厳選されている。

絶望と歓喜のあいだで振り子がゆれる人生。善人を騙す悪人。復讐を企てる善人。最後に笑うのはどっち?精神が崩壊している人、清い心の持ち主。ディケンズは、どんな人物を書かせても天才。

『墓掘り男をさらった鬼の話』と『旅商人の話』は、ユーモアまじりの深いい話。既読の『信号手』は結末が分かっていても背筋が凍った。

読み終えた後、ディケンズをより一層好きになっている自分がいた。

p21
一生懸命仕事をして、働きづめなのにごくわずかの食い扶持しか稼げないでいる人々がにこにこして仕合わせだったし、まったくの無学の人たちにとっては、自然の慈愛あふれる顔が必ずといっていいほど慰めと喜びの源になることが判った。こまやかな養育を受け、愛情深く育てあげられた人々は貧乏しても明るく、性質がもっと粗い人たちだったらとっくに打ちのめされていたはずの苦しみにも押しつぶされることはなかったが、それは幸福と満足と安らぎを胸のうちに貯えていたからであることも知った。

p114
「判らんのだよ」刀をいじくりながら男爵は言った。「本当にここがせちがらいところなのかどうかね。だけど、きみのところがここよりずっといいとも思えないね、だって格別、きみは安楽してるふうにゃ見えないもの。ひょいと思いついたんだけど-この世から消える方が身のためだ、なんて言ったけど、結局のところ、いったいどんな保証があるんだろうか、ってね」

p299
このようにしてディケンズは死ぬまでにかなりの数の短篇小説を発表したが、本書では独立した小説として集め、文学的価値の高いものを選んでみた。また内容的に統一をとるために、主として次の三つの特徴が際立っている作品を集めた。
一、超自然的で、ホラーとコミックが奇妙に混在していること。
二、ミステリー的要素が強いこと。
三、人間の異常心理の追求。

『信号手』を元にした日本の作品
『汽車を招く少女』
『急行出雲』

<目次>
墓掘り男をさらった鬼の話
旅商人の話
奇妙な依頼人の話
狂人の手記
グロッグツヴィッヒの男爵
チャールズ二世の時代に獄中で発見された告白書
ある自虐者の物語
追いつめられて
子守女の話
信号手
ジョージ・シルヴァーマンの釈明

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 岩波文庫
感想投稿日 : 2020年9月20日
読了日 : 2020年9月20日
本棚登録日 : 2020年6月18日

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