ふたたび赤い悪夢 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (1995年6月7日発売)
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本棚登録 : 447
感想 : 50
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名探偵の苦悩極まれり。

著者が言うには、『頼子のために』『一の悲劇』『ふたたび赤い悪夢』の順(刊行順)で三部作を構成するとのことだが、物語の流れとしては本作は『雪密室』と『頼子のために』の続編にあたる。『一の悲劇』は本作よりも後の話、『雪密室』と『頼子のために』は直接の関わりはない。本作のみ読んでも、過去の事件との関わりが多少わかり難いだけで、そこそこ楽しめるとは思うが、遡って読む場合には、重要な点がネタバレになってしまうのでやはり刊行順に読むのが望ましい。

ちなみに本書巻末の笠井潔の解説には前もってネタバレの注意喚起が記載されているが、クイーンの作品については予告なくネタバレしている。それは困るという向きにはいっそ解説を読まない方が良い。『頼子〜』の池上など著者の文庫は解説に恵まれない印象がある。

過去作と大きく絡んでいるせいで単独で手を出しづらいのは難点だが、この時の著者の言いたいこと、書きたいこと、書けること、を、これでもかと何とか全てひねり出したかのような真剣な姿勢が垣間見え、それが悩める探偵像と重なり、従来作にない重厚な雰囲気を醸している。そのシリアスさは物語と非常にマッチしており、個人的には、本作までに発表された長編の中では最も良い出来と思う。物語の終わりには苦悩を消化し、一定のケリをつけた探偵像が描かれ、それがどこか書ききった感のようなものにも見え実に清々しい。ただし著者自身の苦悩は本作発表後も延々と続いていくのだが。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2013年7月10日
読了日 : 2013年7月10日
本棚登録日 : 2013年7月9日

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