表題作、はじめは日野日出志の漫画(女を殺してそこに種をまくと美しい花が咲く、という)みたいだな、と思っていたら、兄妹の近親相姦の話になって、そうきたか、と思っているうち、サドの小説みたいな大団円となって、しかも日本の戦前、戦中、戦後史となっていて、独特の詩情があり、まさに傑作。
他の作品も、この混乱の時代を描いており、作者の精神的ベースはここにあるのだなと、つくづく思う。世の中の価値観が逆転した時代に15歳だったのだから。偽善を憎み、体制を信じない。人の生き抜く姿は醜くても否定しない。
庶民が時代に翻弄されながらも逞しく生きる姿が、突き放した視点で書かれている。
文章は、学校の先生だったら確実に赤字で訂正するほどのオリジナリティがあるが、リズムがあって、的確で、上手い。
選挙に出たり、テレビで歌ったり、討論したり、酔っ払って暴れたりと作品以外のことでさんざん話題になった人だが、それを全てなかったことにしても、小説家として残る人だと思う。
「同行二人」「マイ・ミックスチュア」「紀元は二千六百年」も良かった。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2016年1月5日
- 読了日 : 2016年1月5日
- 本棚登録日 : 2016年1月5日
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