いま生きているという冒険 (よりみちパン!セ)

著者 :
  • イースト・プレス (2011年10月4日発売)
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感想 : 5
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冒険家(と呼ばれるのには抵抗があることはこの本でも書かれているが)とか、登山家とかが命ギリギリのところで生きる喜びを感じることに憧れはあるけれど、それを成し遂げるには人一倍情熱や気力があるだけでは到底足りない。思い切りはもちろんだが、慎重さ、冷静さ、客観性、感覚の鋭さ、コミュニケーション能力、そして頭の良さは必須なのではないか。ここで誰とは言わないけれど、無謀な挑戦をして命を落としてしまった登山家は情熱だけで何とかなると思っていたところがはじめはあったんじゃないか。そして経験を積むうちに、それだけでは太刀打ちできないことに気づいただろう。しかしその時には後戻りできなくなっていたのではないか。
チョモランマ登頂は「無酸素で登ることも人によっては可能です。が、八千メートル以上の山を無酸素で登ると、ボクシングで思いっきりノックアウトされたくらいの脳細胞が死ぬ、と言われています。身体にダメージが残ることもあり、リスクが大きいために無理をすると取り返しのつかないことになってしまいます。」「厳しい環境に身を置くと、自分がどのあたりまで行けて、どのあたりを超えると危険なのか、ということが感覚的に分かるようになります。ぼくの場合、高さは標高八千三百メートルくらいが限界です。そこまでは無酸素で行けるのですが、それ以上先へ行ってしまうと、多分死んでしまうだろうなと思います。」(P158)
8000メートルをこえる山に登ったり、極地を探検したり、羅針盤もエンジンもない船で航海するとなると、肉体的にも、精神的にも、そして頭脳的にも高いものがないと、即、死につながる。
石川直樹さんという人は、それを備えた稀有な人だと、この本を読んで感じた。それでも死の瀬戸際に立たされた。気球で太平洋を横断し、アメリカに着陸する計画だったのが、天候のせいで予定以上に燃料を消費してしまい、太平洋に着水せざるを得なかった体験は、凄まじい。よく生きて帰れたと思う。
文章は平明で淡々としているので、何の経験もない中学生くらいが読むと、へぇーこんなもんかと思うかもしれないが、高山病とか、登山とか、飛行機に乗って乱気流に巻き込まれたとか、石川さんの経験と比べれば足下にも及ばない経験でも、ちょっとでもしていれば、いかにすごいことかわかる。
角幡唯介とか服部文祥とか高野秀行とか冒険家であり文章も上手い人がいるが、石川さんはちょっと毛色が違う感じで面白い。
他の本も読んでみたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年6月1日
読了日 : 2020年5月31日
本棚登録日 : 2020年5月31日

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