歴史と悲恋を扱った児童文学は珍しいし、装丁が美しい。(しかし、ターゲットの子どもには地味かも)
読んだ感想としては、悲恋はそう詳しくは書かれておらず、小学校高学年から中学生に読ませるなら、もう少し恋愛要素があって良かったかのではないかという印象。
物語自体は難しいところはないが、名前を覚えるのは大変そうだ。世界文学を読みなれた大人でも、ロシアと南米の文学の登場人物の名前を覚えるのに苦労した人は多いと思うが(ロシアの名前のバリエーションの多さとスペイン語圏の同じ名前の人の多さ)、これもなかなか登場人物が多く、子どもにはハードルが高いだろう。「フェルナンド」「エルナンド」が複数登場する上(「フェルナンデス」もいる)、キリスト教徒に改宗した後の名前とイスラム教徒としての名前がある。
スペインでイスラム教徒が権力を握っていた時代があったということ自体を子どもは知らない上(大人も世界史として知っていても実際どのようだったかは知らない人が多いだろうから)歴史小説としての価値は高い。その上、異教徒を迫害したために、蜂起され、戦争になってしまうというのは、現在も続いている。イスラム教徒をキリスト教徒が迫害する歴史が古いことにも驚かされる。
「たがいに認め尊敬し合っているキリスト教徒とモリスコ(改宗させられたイスラム教徒)も現にいるのです。善意と寛大さがなければ、それを理解できないでしょうが。たがいに調和し平和に暮らしていったなら、その方がどれほどみなの利益につながるか」(P102)と考える貴族もいたが、結局王と他の貴族たちの意見が多数を占め戦争となっていくあたり、現代と変わらない。また、エルナンド父子が奴隷の身分となるも、マリアの父の伯爵が自由を与えてもらい、「そなたたちは真の友だ」と言われたとき、「そのことはわたくしたちも、しかと承知しております。しかし、人が自尊心を持てるかどうかは、ほかの者が自分をどう見るかではなく、自分が自分をどう思うかで決まるのです。」(P156)という言葉は重い。
今に通じるテーマが、子どもにも理解できるように書いてある。どんな子でも楽しめるわけではないけれど、よく読める子どもには薦めたい。
- 感想投稿日 : 2018年1月28日
- 読了日 : 2018年1月28日
- 本棚登録日 : 2018年1月28日
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