「顔に降りかかる雨」「天使に見捨てられた夜」でシャープに活躍するヒロインの私立探偵村野ミロの父村野善三の若かりし日のハードボイルド・ミステリー。
そして、「ローズガーデン」にて濃密なミロの世界を創り出した源の出生の秘密が解き明かされる。
時は1963年。東京オリンピック開催一年前。私の若き日と同時代!
時代の風物が、特に銀座の風物が私のノスタルジーをくすぐる。
冒頭の一節、
『熱風と轟音が開け放たれた窓から入ってくる。地下鉄はどうも好きになれない。』
のっけから、ほんとその通りだったよ。地下鉄はものすごく蒸し暑いが当たり前。夏は地獄。地下鉄の全車両にエアコンがついたのは何時からだったのかなー?
主人公、村野善三が地下鉄爆発事件の始まりの不審な新聞紙の包みを偶然見つけるのは、灯りが消えて読んでいた新聞から目を離して車内を見渡したからだ。これも真実、しょっちゅうあった、実体験している(笑)
よくあったことだが地下鉄銀座線の車内の照明が突然パッと消えてまたついたから。銀座線が特に多かったなー。一番古い地下鉄だからかしらん。
この導入部にはほとほと感心する、桐野さんとてもうまい。導入部分だけでない前編がそう、だから私が浸るのは当然だった。
このハードボイルド・ミステリー「水の眠り 灰の夢」で私が感じるノスタルジーをざっと挙げよう。
お江戸日本橋の上にかかる高速道路。(物議をかもした)
キャバレー『クインビー』、森永の地球儀のネオン。
週刊誌、トップ家。(週間誌のはなざかり)
小松ストアー。(もうない、よく買い物したのに)
ホンコンシャツ。バイタリス。アイビーファッション。(アイビールックといっていた)
映画『天国と地獄』(恋人と見た)『灰とダイアモンド』(忘れられない)
…きりがない。
この映画『灰とダイアモンド』はこの小説の底の、副のテーマだと思う。
村野善三と後藤伸朗と大竹早重の持っている個性が織り成す理想と現実との戦い。
『君は知らぬ、燃えつきた灰の底にダイアモンドが潜むことを……』(映画の中で主人公マチェクが墓碑銘を読むシーン)
もちろん、ノスタルジーだけではない。
当時の上り調子な世相、向上と上昇と物欲、反逆、底辺のうめき、うごめきがないまぜになってスピードのある面白いストーリだった。
この本の解説(井家上隆幸)も適切で参考になった。
- 感想投稿日 : 2021年3月13日
- 読了日 : 2004年11月27日
- 本棚登録日 : 2021年3月13日
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