(株)貧困大国アメリカ (岩波新書)

著者 :
  • 岩波書店 (2013年6月28日発売)
4.01
  • (132)
  • (152)
  • (73)
  • (15)
  • (8)
本棚登録 : 1374
感想 : 173
5

アメリカ社会の今を素晴らしい、取材力と分析力でまとめ上げた本。
非常に読みやすい。

作者の堤未果は9.11同時多発テロを間近で見てからアメリカについての取材を始めたらしい。
そのため、ブッシュ政権以降のアメリカの新自由主義的な政策を取り上げ、それをオバマも確実に踏襲しているという指摘がある。
本書で取り上げられるコーポラティズムや新自由主義は1980年代から始まっている、ということが重要だと私は思う。さらにいえば、それ以前の古き良きアメリカ像は大戦後の50年代から70年代だけだ。
資本主義が国民に対してしっかりと分配し、中流層が拡大したのは1950年代から70年代にかけての限定的な時代だったということを考えなければならない。
つまり資本主義の本質は、今のアメリカが抱えており、本書が指摘していることだと思う。
これは本質を指摘し、問題提起した本であり、アメリカが特殊な国だからということではないように思う。
なので資本主義が「強欲」になったからとか「悪い資本家」が登場したからという見方には疑問を持っている。

ブッシュのイラク戦争について疑問を持った著者は「ルポ貧困大国アメリカ」では、「経済的徴兵制」という言葉を用い、学資ローンの返済のために軍隊へ入る若者の話を取り上げていた。
今作では、最初に「食」の問題を取り上げる。
農業の工業化が引き起こす様々な問題を取り上げ、その影響がTPPを通して日本に侵攻してくる危険性を指摘している。
特にひどいのはイラクだ。これはナオミクラインの「ショック・ドクトリン」でも指摘されていた部分だが、イラクの豊かな農業を単一のGM種子で駆逐してしまう。それもイラクの農業の近代化、未来化のためにというフレーズとともにそうしてしまうのだ。
GM種子の問題は、単に人体への健康被害という問題だけではない。それを栽培している農家は永続的にモンサント社からその種子を購入し続けなければならないからだ。なぜならその種子はモンサントが知的財産権を保有し、その権利を保護するためにアメリカという国家権力は実力行使するのだ。
また、政治ショーと化している既存のマスコミ報道についても取り上げている。今や「リベラル」対「保守」なんて言う対立軸は存在しない。
その対立軸に隠されているのは「1%」対「99%」であり、持つものと持たざる者の、決定的な格差なのだ。
本書でしばし取り上げられるこの「1%」は多国籍企業であったり、政府高官であったりする。しかし共通するのは国家という枠組みを利用しながら利益を得ているのだ。
それは自国だけではない。他国の「1%」ととも結託しているのだ。その象徴がウォールストリートだったり、ロンドンの「シティ」だったり、タックスヘイブンだったりするのではないだろうか。
しかし、グローバルに活動することによって利益を上げ、国家の枠組みを緩和していくからといって、国家がなくなるわけではないと思う。
国家は必要なのだ。「1%」にとっても国家という枠組みとそれに付随する様々な力は必要だ。知的財産権を守らせるためには、つまり「1%」の利益を守るためには何らかの実力の行使ができなければならないからだ。
こうした実力の行使には莫大なコストがかかる。だからそれは既存の国民国家に背負わせておきたいのだ。
そうした点で見ると、アメリカがシリアに介入しなかったのは当然である。
シリアにはアメリカにとって守るべき「1%」がいなかったのだ。
今後もアメリカは民主主義や自由に対して主張をするのかもしれない、しかしそれ以上に忠実なのは持てる「1%」がさらなる利益を上げることに対してだろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 社会
感想投稿日 : 2014年7月1日
読了日 : 2014年6月30日
本棚登録日 : 2014年6月30日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする