はんぶんのユウジと

著者 :
  • 文藝春秋 (2019年10月25日発売)
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感想 : 15
4

【気に入った表現】
どうしても家のお荷物になってしまう二人が分ける料理が、私たちの頼りない姿にあてられたかのように、美味しさが失われている。私たちが協力しあったところでしょうもなさを増強させることにしかならないのが、今回の食事で分かってしまった。こんな二人だから家の庇護が確保できる環境のなかで結婚したほうがいい……のだろう。
【感想】
結婚3ヶ月で夫に先立たれたイオリの話。それまで親の言う通りにしかしてこなかった彼女が、夫の両親に言われ自らの意思で亡き夫の遺骨を半分持ち帰る。故に「はんぶんのユウジと」というタイトル。
また同時にタイトルは例えば「はんぶんのユウジと」にある上記引用の表現からも分かるように、イオリもユウジも半人前であり、2人で漸く一人前の大人なのだ、というメッセージも込められているのではないかと考えた。親の言いなりに生きる二人が合わさったところでしかし特にいい結果は生まれない。だからこそイオリは改めて、自身が親の助言を求められる場所に居られることを
歓迎する。しかし歓迎している反面、段々とそういう自身の生き方にも疑問を覚え始めているのが、上の引用シーンだ。イオリにとってユウジという存在は自らを客観的に見るための外部装置であり、それを見ることによって半人前の自分がどういう存在かを認識していったのではないか。
物語は進むにつれてユウジと、元々ユウジをよく思ってはいなかったタクミの話に移っていく。タクミはそれまで仮病だと思っていた兄ユウジの胃痛を発症させ、それを皮切りにユウジとタクミという2つの存在が近づいていく。近づくとともにそこへイオリの存在が絡み始める。
果たして最終的な物語の着地として、何を表現したかったのか。それを読み取るのがなかなか難しいとは思ったものの、感情に形を与えようとした意欲作なのではないかと感じた。
イオリはユウジとの結婚を「親が勧めたものだから」と考えてはいたものの、本当はユウジを愛するようになっていた。だからこそユウジが亡くなった直後、悲しみがやってこなかったのではないか。
そしてそういう遅れてやってきた悲しみと、そこに至るまでの道程を描くことによって「悲しみ」という感情を描いたのではないかと考える。いい作品だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年4月29日
読了日 : 2020年4月29日
本棚登録日 : 2020年3月2日

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