最後の「川波抄」を藤枝静男がほめていたので読んでみた。江戸の末期から明治を生きた大伯父や、文子が幼いころ同居していた書生や女中たちの思い出がゆったりと描かれていて、岡本綺堂の随筆を読むような、のんびりした、でもちょっとさみしいような読み心地。
しかしこの最後の随筆以外は、女の業をこれでもかと書きつける凄絶な話ばかり。前半のリアリズム小説「ひもじい月日」、「黝い紫陽花」、「妖」は、愛のない結婚を我慢し続けた挙句に腐らせる、まさに“誰得”な話ばかりだった。主人公たちはみんなそれなりに生活をこなしているんだけれど、肝心なことをないがしろにするから全員気持ち悪い結末を迎えてしまう。嫌い/興味ない夫というのは年を取ってからこんなにきついのか、とぞっとした。
後半の、女の妄執と夢幻が溶けあう「二世の縁 拾遺」、「花食い姥」、「猫の草子」は、妖しいもの・幻想好きならかなり楽しい。こっちも気持ち悪いは気持ち悪いけれど、リアリズムじゃないから先が気になって読んでしまう。古典を現代でくるんだ構成になっている「二世の縁 拾遺」は長さも濃さもちょうどよかった。
それにしても「女」「老い」「性」を執念でまとめるとこんなに気持ち悪いとは。あまり接することがない組み合わせだからなんだろうな。若い男がもやもやしてたって、全然普通だもの。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
日本 - 小説/物語
- 感想投稿日 : 2012年7月18日
- 読了日 : 2012年7月18日
- 本棚登録日 : 2012年7月18日
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