鷺沢 萠の【愛してる】を読んだ。
1話読みきりの連作短編集。
「ファッサード」という名のクラブに集う若者たちと主人公である「私」が織り成す人間模様の物語。
若者が持つ、「それぞれの事情」や「やりきれない思い」が到る所に散りばめられた、かけがえのない青
春の1ページのような物語だ。
私はもちろん、ジュニアやヒロアキ、アキオ、ハンニバルと言った愛すべきキャラクターが若者特有の苦
悩と情熱を抱えながら「生きて」いく。
青春物語と言っても、元気ハツラツなわけでもなく、清々しく、若々しいわけでもない。
どちらかといえばアンダーグラウンドな世界。僕も似たような経験をしてきているので、読んでいて懐か
しさで胸が熱くなってしまった。
どこに向かうわけでもなく、出口の見えないような時間を仲間とともに過ごし、時には道を誤り、落ちて
いく仲間を助けることも出来ず、自分が生きていくのに精一杯な時間を過ごしていく。
その時間の中で本当の仲間の大切さや、人の優しさなんかを学んでいくのだ。
この作品を鷺沢 萠が書き始めたのが21歳の時だというから、その才能には驚くばかりだ。
こう言ってはなんだが、近年目立つ作家の若年化とは次元の違うところにいる本物の作家であったように
思う。
彼女の遺した作品に更なる興味を持つきっかけとなった作品だった。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
女性作家
- 感想投稿日 : 2009年7月30日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2009年7月30日
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