ファザーファッカー (文春文庫 う 6-3)

著者 :
  • 文藝春秋 (1996年10月9日発売)
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内田 春菊の【ファザーファッカー】を読んだ。

「こんなことがあるのか!?衝撃の自伝小説」帯のコピーをそのまま使わせてもらう。

まさにこの一言に尽きる小説だ。

以前に読んだエッセイの中で内田氏はファザーファッカーについてこう語っている。

『最初の作品「ファザーファッカー」は遺言代わりだった。〜中略〜「じゃあ小説にして、出版して恥か

かせてやれ」と、母からされたことを小説にしはじめた。』

内田氏は実母と妹と大喧嘩をして親子姉妹の縁を切っている。その自伝はひとつひとつの言葉がずしりと

のしかかってくるほどの緊迫感と重圧で読むものを圧倒する。

幼少の頃から実の父に暴力を振るわれ、怯えながら生活をする。そして両親の離婚。次に母親が連れてき

た男、すなわち後の養父が最低の男だった。

簡単に説明してしまえばこういう事である。

主人公の静子(すなわち内田氏)は実母と養父の願望というか希望通りというかとにかく成績優秀の優等

生でいなければいけない生活をしいられた。勉学は常に学年のトップでなければ許されない。3位とかで

叱られ、暴力を振るわれ、1位になればそこから落ちることは許されない。

そんな中、事件は起きる。当時付き合っていた彼氏との性行為の末、妊娠してしまうのである。

性に対する知識が希薄な上に、早い対応をすることが出来ず、下腹部が大きくなるまで親にも言い出せ

ず、そのままにするのである。

そして発覚。ここからがこの事件の悲劇の始まりである。

ろくでもない養父は、妊娠を検査すると言い張り、ついには我が子に対して淫行を働くのだ。

しかも実母がこれを承知のうえで黙認するという有様。妊娠した静子が悪いと・・・。

その後はそれが儀式のように養父に犯され続ける静子。これがまぎれもない事実というのだから言葉が出

ない。

今だから言える性的虐待などではなく、立派な犯罪ではないか。

小説としての構成うんぬんを通り越し、同じ男として、この養父に怒りを感じ、同じ人間として失望して

しまう。

こんな事実が許されるのだろうか。いくら血の繋がりがない養父とは言え、父である。暴力の挙句の性的

暴行。最低と簡単に表現していいものかどうかすら疑問に思ってしまう。そしてそれを黙認する実母。

こちらは血の繋がった実の母だ。犬畜生より劣る。

この本を読み終えてしばらくたつが、こうして思い返してみるだけで怒りが蘇る。人間はここまで畜生に

なれるのか。色々な意味で深く考えさせられる作品である。

個人的には未成年の性行為も大人の不貞な性行為も否定はしない。お互いが了承の上の行為であるなら

ば。しかし、昨今見受けられる、悪意の性的暴行や屈強な男達が力任せに暴行をする行為は絶対に許せな

いのだ。男なら堂々と口説け!そう思わずにはいられない。

正直、なんと言っていいのかわからない作品なのだ。あまりにも事実が重過ぎる。

内田氏が恥を忍んでこの作品を世に出した意味を、読む立場としては真剣に受け止め、考えなければこの

作品を「小説」として読むことはたいそう難儀な事ではないだろうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 女性作家
感想投稿日 : 2009年7月27日
読了日 : -
本棚登録日 : 2009年7月27日

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