未来のイノベーターはどう育つのか――子供の可能性を伸ばすもの・つぶすもの

  • 英治出版 (2014年5月13日発売)
3.72
  • (18)
  • (32)
  • (23)
  • (6)
  • (2)
本棚登録 : 415
感想 : 42
2

これまでのイノベーションの分野では、アメリカがリーダーシップを発揮してきた。その理由としてよく挙げられるのは、強力な特許法や著作権法の存在、ベンチャーキャピタルの潤沢な資金、最新のインフラ、政府の研究開発への投資、とびきりの人材を世界中から引き寄せる移民政策などだ。p16


「読書の時間を設けた理由のひとつは、学校であれを覚えてこい、この問題を解けといわれるプレッシャーを忘れる環境を作りたかったからです。自分が好きな本を選んで、自分の好きなペースで読めるのは大きな違いです。」私が多くの子どもたちを観察したところでは、読書の習慣は集中力という筋肉と、自発的な学習の習慣を育むようだ。

IQ(知能指数)よりも CQ(好奇心指数) と PQ(情熱指数)が大切です」とフリードマンは言う。

多くの政治家や経営者の意見は一致している。経済の健全性を長期的に維持し、景気を完全に回復させるには、現在よりもお多くのイノベーションが必要だということ。

新しい(または改良された)アイデアや製品やサービスは、富と雇用を生み出す。特に企業経営者の間では、科学、技術、工学の分野でイノベーションを生み出せる若者を増やすべきだという声が強い


ゼネラル・エレクトリック(GE)は2011年、世界12か国の企業幹部1000人にインタビュー調査を行った。その結果、「回答者の95%が、イノベーションは国家経済の競争力を高める重要な手段であり、88%が、雇用を創出する最善の方法はイノベーションだと考えている」ことがわかったという。

また回答者の69%が「これからのイノベーションは、高度な科学研究よりも人間の利益を生み出すものではなく、人間のニーズを満たすもの」になると予測した。

さらに90%がイノベーションは環境に優しい経済を実現する重要な手段になると考え、85%がイノベーションは環境を改善すると確信している。

また58%がクリエーティブな人材がいることが、企業がイノベーションを生み出す最も重要な要因だと考えている。


2011年にイノベーション企業研究所を新設したロンドン・ビジネス・スクールのアンドリュー・リッカマン学長は、「(イノベーションの)厳密な定義はしていない」と、ウォールストリート・ジャーナル紙に語っている。

「これは新しい物事が起きる・・・プロセスのことだ。私はイノベーションをアプローチだと思っている。しかし研究所としては標準的な定義をしている。つまり新しい製品とサービス、もしくは新しいビジネスモデルやプロセスを通じて価値を生み出す新しいクリエーティブな方法だ」

優秀な若者を貧困地区に教員として派遣するティーチ・フォー・アメリカ(TFA)


イノベーターに必要なスキル

私は前著『世界の学力格差』で、フラット化する世界で仕事、生涯の学習、そして市民生活に求められる新しいスキルを「7つのサバイバル術」と名づけた。

1 批判的思考と問題解決能力
2 ネットワーク全体におけるコラボレーションと影響力によるリーダーシップ
3 敏捷性(びんしょうせい)と適応力
4 イニシアチブと起業家精神
5 情報へのアクセス力と分析力
6 口頭と書面でのきちんとしたコミュニケーション力
7 好奇心と創造性


IDEOのデザイン思考は、イノベーションのあらゆるプロセスの基礎になると考えれる。『発送する会社!』『イノベーションの達人!』『デザイン思考が正解を変える』(早川書房) IDEOの社長兼CEOのティム・ブラウンやマネジングディレクターを務めるトム・ケリー。

ブラウンは、ハーバード・ビジネスレビュー誌に寄稿した論文で、「デザイン思考者」の5つの特質を挙げている。

第1は「共感」 人間を中心に世界を多角的に思う描く能力。

2つ目「統合的な思考」 問題をあらゆる側面から見つめて、場合によっては突破口的な解決策を見出すのを可能にする能力だ。

「楽観主義」も必要不可欠だとブラウンは言う。

なぜならデザイン思考は、どんなに難しい問題にも必ず解決策が見つかると信じることから始まるからだ。

しかし「実験主義」すなわち新しいクリエーティブな方法で解決策を探る試行錯誤のプロセスがなければ、最終的な解決策は得られない。

そしえて5つ目に、デザイン思考者は「コラボレーター」でなくてはならない。

「現代の製品やサービスや経験は非常に複雑であり、クリエーティブな天才が一人いれば問題は解決できるという思うこみはもは幻想にすぎない。

問題解決には複数の分野を知る情熱的なコラボレーターが必要だ問うのが新しい現実だ。

最高のデザイン思考者は、異なる分野の人と一緒に仕事ができるだけではなく、自らもさまざまな領域で相当な経験を積んだいる。


クリステンセンらは、独創的な人間かそうでないかは、関連付ける力、質問力、観察力、実験力、ネットワーク力という5つのスキルがあるかないで決まることを発見した。3人はさらに実行力と思考力の2つのカテゴリーに分けた。

●実行力・・・イノベーターは質問力(疑問を投げかけること)によって現状を打破し、新たな可能性を検討する。また観察力によって、新しいやり方のヒントとなる(顧客やサプライヤーや他社の)ささいな行動に目を付ける。さらに実験力によって新しいエクスペリエンスを執拗に試してその領域を探る。そしてさまざまなバックグラウンドの人とネットワーキングを通じて、それまでとは全く異なる視点を持つようになる。

●思考力・・・4つの行動パターンはみな、イノベーターが物事を関連付け、新しいインサイトを得る助けになる。


成功するイノベーターに最も欠かせない資質のいくつかは次のようになる。

●好奇心・・・すなわちいい質問をする癖ともっと深く理解したいという欲求

●コラボレーション。これは自分とは非常に異なる見解や専門知識を持つ人の話に耳を傾け、他人から学ぶことから始まる。

●関連付けまたは統合的思考

●行動思考と実験思考


ダイアー、グレガーセン、クリステンセンもらの論文は次のように結論付けている
「独創的な起業家精神は遺伝的資質ではなく、積極的な努力によって得られるものだ。アップルの『シンク・ディファレント(発送を変えろ)』というスローガンは刺激的だが不完全だ。発送を変えるには行動も変えなくてはいけない。イノベーターのDNAを理解し、補強し、手本にすれば、企業は全従業員にクリエーティブなひらめきを起こさせることができる」

問題がある、現代の社会で「(大多数の人と)違う発想をするために、違う行動を取る」のは容易ではない。それを変えるには大人の行動を根本から変える必要がある。

グレガーセンはあるインタビューで創造性の欠如について語っている。
「4歳児は絶えず質問し、物事の仕組みについて首をひねっている。ところが6歳半くらいになると質問するのをやめる。なぜなら学校では、厄介な質問よりも正しい回答が歓迎されることを学ぶからだ。高校生にもなるとめったに知的好奇心を見せない。そして成人して就職したときには、自分の中から好奇心を閉め出してしまっている。新しいアイデアを見つけることに自分の時間の20%以下しか割かない企業経営者は80%にも上る。もちろんアップルやグーグルのような企業の経営者なら話は別だが」

このようにかんがえているのはグレガーセンだけではない。

ケン・ロビンソンは著書『才能を引き出すエレメントの法則」(祥伝社)とTEDの講演で好奇心と創造性がさまざまな形で阻まれていることを、「教育によって閉め出される」という表現で語っている。

心理学者で創造性について研究してきたロバート・スターンバーグも同意する。
「創造は癖だ。問題は、学校がこれを悪い癖として扱うことがあることだ。・・・どんな癖でもそうであるように、創造性は伸ばすこともできれば、抑え込むこともできる」


アマビール教授の最も影響力のある論文のひとつは、「あなたは組織の創造性を殺していないか」(邦訳は『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』1999年5月号に収録。
この論文の素晴らしいところは、企業で創造性をどのように理解するべきかの枠組みを示すとともに、創造性を抑圧する経営と奨励する経営を例示していることだ。

イノベーション(創造性)は、専門性(知識)とクリエーティブな思考力、モチベーションが必要。

「専門性やクリエーティブな思考は個人の原料、つまり生まれつきの財産といっていい。しかし人が実際に何をやるかは、3つ目の要因であるモチベーションによって決まる」


情熱と興味(何がしたいかという人間の内的欲求)は、内的モチベーションにほかならない。

外からのプレッシャーではなく、自分の関心、満足感、挑戦意識が最大のモチベーションになっているとき、人は最もクリエーティブなる。


ビル・ゲイツをはじめ多くの企業経営者は、企業の競争力を高めるには、大学でSTEM(科学、技術、工学、数学)を先行する学生を増やす必要があると主張している。

ゲイツもザッカーバーグもスティーブ・ジョブズもマイケル・デルもディーン・ケーメンもポール・アレンも、多くの優れた胃のベータは創造的なアイデアを実現するために大学を中退している。


ジョブズによると、彼が大学でとった授業のうち、初代マッキントッシュに最も役に立ったのはSTEM関連の授業ではなくカリグラフィーの授業だった。


ハーバード大学経営大大学院のテレサ・アマビール教授は、人間の創造性を乃場るのは専門性、クリエーティブな思考力、そしてモチベーションの3つだとした。このうち最も重要性が低かったのは専門性のようだ。


従来型の高校や大学の教育カルチャーには、キャリアー教授のクラスのカルチャーとは絶対的相容れない3つの基本的特徴がある。

第一に、従来型の学校では個人どうしの競争や実績を評価するが、キャリアー教授はチームワークを重視する。

第二に、従来型の授業では、細分化された科目の専門知識を教えてそれを暗記しているかどうかを問うが、キャリアー教授の授業では課題をベースに分野横断的なアプローチが取られる。

第三に、従来型の学校は外的インセンティブ(成績や評価点)をちらつかせて学生の尻を叩く。これに対してキャリアー教授の授業は、探究やエンパワメントや遊び(あるいは奇抜なアイデア)といった内的インセンティブを駆使する。


イノベーションとは、この世界で意味があること、人々にインパクトを与えること、そして人をわくわくさせることをやるということ。企業には2種類ある。

ひとつはうまく回っているけど仕事のペースが遅い古風な会社。社内で何が起きているかよく把握しているし、システムもきちんとしていて、物事の進め方も決まっている。

もうひとつは破壊を繰り返す会社。アップルはスタートアップのように経営されている。こういう会社は迅速なプロトタイピングとイテレーション(短期間の開発の繰り返し)を通じて、イノベーションを続ける。未来がどうなるか絶えず考える。確かに企業は利益を上げなくてはいけないけれど、本当の成功とはその利益を継続的なイノベーションに投資することで得られる。


ジャーナリストのデービッド・ボーンステインは著書『世界を変える人たち』(ダイヤモンド社)で、社会イノベーターとは「大きな問題に新しいアイデアで取り組み、自分のビジョンを粘り強く追及し、『無理だ』という声を聞き入れず、自分のアイデアをできるかぎり広めるまであきらめない人たち」だとしている。


21世紀には、自分が何を知っているかよりも、自分が知っていることで何をやれるかのうほうがずっと重要になる。

いま生徒たちが身につけなければならない最も重要なスキルは、新しい問題を解決するために、新しい知識に関心を持ち、新しい知識を作り出す能力だ。

成功を収めたイノベーターはみな、「その場その場で」学び、その知識を新しい方法に応用する能力を持っている。


ステーブ・ジョブズの伝記の著者ウォルター・アイザックソンは「ビル・ゲイツはとてつもなく頭がいいが、スティーブ・ジョブズはとてつもなく独創的だ。いちばんの違いは、問題(の解決)にクリエイティビティーと美的感覚を持ち込む能力だと思う。


私が話を聞いた親たちはみな、自分の最も重要な仕事のひとつは、子供が自分で情熱を傾けられてることを見つけ、追いかけるのを応援擦ることだと確信していた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2015年11月5日
読了日 : 2015年12月29日
本棚登録日 : 2015年11月5日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする