主体性というものを持たず
「先生」のいいなりに利用されてきた男が
戦争の時代を経て、侮辱されていると気づき
呪縛を脱していく話
自我の目覚めというよりも、絶望からくるニヒリズムなんだが
1950年代の日本では、これが大変に売れて映画化もされた
話の舞台となった宇和島市では
作品にちなんだ饅頭が、今も土産物として売られている
「先生」の推薦で、軍の情報局に勤務していた主人公は
戦犯として逮捕されることを恐れ
やはり「先生」の勧めで
惚れた女に心を残しつつも
東京から愛媛県の南予地方へと逃れるのだった
長閑な田舎ぐらしのなかで東京者は珍しがられ
いろいろといい思いをさせてもらううちに
「先生」への反感も育てていく主人公は
やがて四国に根を張ろうと考え始め
地元民の提唱する四国独立運動にも、積極的に参加していくことになる
しかし新たな恋に破れ
新税制のために、居候先の家は傾き
さらには終戦翌年発生した南海地震の大混乱に巻き込まれて
結局は東京への帰還を余儀なくされるわけだ
今風にいえば
戦後文学であると同時に、震災後文学ということにもなるだろう
話の舞台は、大江健三郎の生家に近いので
「森」のサーガと比較してみるのも面白いと思う
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- 感想投稿日 : 2019年12月22日
- 本棚登録日 : 2019年12月22日
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