『自然の摂理と人間の理を描いた熊文学』
明治時代の北海道を舞台に、1人の猟師の盛者必衰を描いた純文学。いや、熊文学と言えよう。全体的に獣感が強く、エグめの描写も多い。特に狩猟によって捉えた獲物を解体するシーンは、動物から食料への変化、すなわち生命の境界線が圧倒的な筆力で表現されており凄みを感じた。
本書の主人公・熊爪は、人里離れた山中で相棒の犬を供に狩猟によって生活している。前半は猟師として「熊vs人間」の壮絶な戦いを描き、後半は自然と文明との間に葛藤する一人の人間を描く。人は接する環境によって、獣にも人間にもなれることを思い知らされる。
タイトルの「ともぐい」は熊と人間の両方に掛けたものと推測する。ラストシーンの男の覚悟は、読者としてどう受け止めれば良いのか難しい感情だ。そんな中、最後まで犬の存在は良かった。
後半は欲しいものを手に入れ幸せなはずなのにどこか哀愁が漂う雰囲気は、同じ直木賞を受賞した『しろがねの葉』(千早茜 著)にも通づるところを感じた。人間の儚さと艶めかしさを感じる文章力は読み応え抜群。自然の中に放り込まれたような物語への没入感は最高であった。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
小説
- 感想投稿日 : 2024年2月2日
- 読了日 : 2024年2月1日
- 本棚登録日 : 2024年1月27日
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