精霊流し (幻冬舎文庫 さ 8-1)

著者 :
  • 幻冬舎 (2003年8月1日発売)
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感想 : 77
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ばらばらな断片を,時間差攻撃で並べ,それを少しずつつなげ,最後にはっとさせる。これがまさしの得意とするパターンだ。だから慣れていない人には読みにくいだろうなと思いながら読んでいた。特に最初は気負いがあるから,文章が前のめりになっている。
ほとんどのエピソードの輪郭はもうすでに知っていた。まさしのトーク集で,まさしの歌で,まさしの他の本で語られ歌われていたことが小説というかたちを借りて,再発信されていた。にもかかわらず,じーんときた。そこにまさしの歩んできた人生の重さがあり,彼の”生”をささえてきたたくさんの大切な人々の”生”の重さがあるからなのだろう。
自分はピラミッドの頂点にいる。自分の下には父・母,そして祖父,祖母,そしてそれにつながるたくさんの人がいる。その上で自分が生きていることを忘れてはいけない。そんなメッセージが届いてきた。
私は「おばあちゃんのおにぎり」の話が大好きだ。自分が無意識に(いや厳密にいうと意識して)人を傷つけてしまったことに気づいた瞬間。顔から火が出るような瞬間。私の中でもいくつもの場面が焼き付いている。高校時代,親しくしていた友人がせっかく持ってきてくれたミッシェル・ポルナレフのテープとその歌詞を持ち帰るのを忘れて,次の日,友人がそれを見つけてしまった場面・・・。それが私にとっては,「おばあちゃんのおにぎり」だ。

「精霊流し」の中で一番気になった話は,まさしがコンクールで争ったバイオリニストの夭折だ。この話も沁みる。この話が本当なら,彼女の本当の名前を知りたい。そして彼女のバイオリンを聴いてみたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: さだまさし
感想投稿日 : 2019年1月5日
読了日 : 2019年1月5日
本棚登録日 : 2019年1月5日

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