東海村臨界事故 被曝治療83日間の記録

著者 :
  • 岩波書店 (2002年10月29日発売)
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感想 : 16
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これだけの重大事故で、これだけ悲惨な亡くなり方をした被害者が二人もいたにもかかわらず、「原子力の安全神話のもとに命の視点がないがしろにされている」という論理から「命の視点に立った、何かあった時のための医療体制を確立させる」という結論へ導かれていることに、時代の違いを感じる。
本来なら、放射能というものがいかに人間の能力を越えた怖ろしいものであるかを実感し、ここまで医療面でも倫理面でも深刻な実例を目の当たりにしたならば、そもそも原子力というものに頼ろうとすること自体が問題視されるべきだろう。
この事故が、管理しているJCOの体制の甘さが招いた結果であるからだったことを差し引いても、いかに私たちの頭の中に原子力の安全と推進の神話が刷り込まれていたのかがうかがえるというものだ。

世界でも前例のない大量被ばく患者を前に、持てる知識と技術の全てを注ぎつくした医療関係の方々にはただただ頭が下がる。と同時に、被ばく事故云々とは別に、医療倫理というものを深く深く考えさせられた。
また、医師や看護師という医療に携わる人々の、医療そのものに対する意識、普通の人間としての感情、倫理という面での問題など、本当に難しく答えのないぎりぎりのところで仕事をしているその尊さと難しさを思わずにはいられなかった。

8シーベルト以上の放射能を浴びた人間の致死率は100%なのだそうだ。
今かなりの難しい病気でも、これほど簡単に致死率が100%と言われるものはないのではないか。それほど進んだ医療をもってしても、放射能とはかようにも怖ろしい、人間の能力をはるかに超えた脅威の怪物なのだ。

あっという間に読めてしまったが、涙なしには読めない。
是非、いま原子力発電を推し進めようとしている全ての人に読んでもらいたい。
原子力をコントロールするなど、人間の幻想でしかないのだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説以外(エッセイ・ノンフィクションなど)
感想投稿日 : 2011年12月24日
読了日 : 2011年12月24日
本棚登録日 : 2011年12月16日

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