アラブの春は終わらない

  • 河出書房新社 (2011年11月30日発売)
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感想 : 11
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昨年著者の『火によって』を読み、気になっていた本書を手にしてみた。

本書は2011年末の出版であるが、同時期に書かれた『火に~』は、一年ほど遅れての邦訳だったようだ。訳者あとがきで未邦訳作品として紹介がある。

『火に~』はあくまでも小説としての作品だったのだが、本作は脚色を交えつつも、事実に即した「アラブの春」を著者なりの捉え方で描き出している。
しかも、執筆時点ではまさにその革命があちこちで進行中で、その後の展開は読めていなかったはずだ。だが、著者は本を書かずにはいられなかった、それほど、著者の中で「アラブの春」に対する思いが深く、また命を賭して自由と尊厳と人権を求めた人々の魂の叫びに強く共感し、著者自身が突き動かされたからに違いない。

訳者あとがきで、この年の秋のベルリン国際文学祭での著者のスピーチの一部が紹介されている。
「作家とは時代の証人、しかも警戒を怠らず、ときに能動的に行動する証人である。作家は単に世界を見るのではなく、観察し、ときには裏まで詮索し、自分の直観にしたがって、想像力の源の奥底までおりてゆき、世界を記述する」
その思いにまっすぐしたがって、書き上げた作品が本書と『火によって』であったということだろう。

著者が語る、チュニジアやエジプトなど取り上げられている国々の独裁ぶりはすさまじく、これほど長い間、こんな横暴が続いていたとは、ここまでの悪政に(「政」とすら言えないかもしれない)人々が苦しめられ続けていたとは、まったく理解していなかった。
単に、虐げられてきた人々がついに立ち上がって大きな革命を起こした「アラブの春」と、ひとくくりにしか捉えていなかった自分が情けない。

『火によって』同様、訳者あとがきに、大まかながらも背景や関連のある事柄の解説がある。また、執筆当時は描けなかった各国のその後にも少し触れられており、私のようにアラブ諸国の事情に全く疎くても、ざっくりとした全体像は理解できるのではないだろうか。

本書と、「アラブの春」の発端となったムハンマド・ブアズィーズィ青年(本書ではモハメド・ブアジジと記述)の物語『火によって』も併せて読むといいかもしれない。

シリアとイエメンの今後が気になる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説以外(エッセイ・ノンフィクションなど)
感想投稿日 : 2013年1月25日
読了日 : 2013年1月25日
本棚登録日 : 2013年1月25日

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