「こころ」の本質とは何か (ちくま新書)

著者 :
  • 筑摩書房 (2004年7月6日発売)
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本棚登録 : 171
感想 : 10
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小浜逸郎氏が主宰する「人間学アカデミー」という講座で、精神科医の著者が人間の「こころ」の本質に迫るべく、特に統合失調症、発達障害(特に自閉症)、不登校に絞って講演した内容を、加筆修正しつつまとめた一冊。

講演が元なだけに、表現は口語調でわかりやすい。
だからといって内容が浅いかといえば全くそんなことはなく、それらの病態を非常に平易な言葉で、且つより実態に即した表現で噛み砕いて説明、さらには一般の人々が陥りがちな間違った認識や偏見を正しく導き、また身近にそのような問題を抱えて苦しむ当事者をもつ人々にも寄り添うような、当事者とその周囲の人々への深い愛情すら感じさせる、非常に示唆に富む内容だ。

精神医学の歴史というかその変遷のなかで、どのように統合失調症や自閉症が受け止められてきたのか、それが今またどのように変わりつつあるのか、社会の中での在り方も考え合わせながら、その病気の本質を読み解いていく。そしてつまりは、それにこそ、人間の「こころ」の本質が隠れているのだ、と。

たとえば精神医学や心理学系の勉強をしたい人、教職を目指す人、また今実際に教育現場にいる先生方や保護者達、そして家族や周囲に精神疾患に苦しむ人を持つ方たちにはもちろんだが、統合失調症や自閉症について、あまりよく知らない人にも是非読んで欲しい。
彼らは決していわゆる「健常者」とは切り離された特別な人々ではなく、人間という生体が存在する中で、あくまで個々のばらつきの中のひとり、それぞれの人間の個体差の中に存在するひとりでしかないのだ。
私たちと連続する繋がりの中のひとりなのだ。

実は、引用登録しようと、これはと思う箇所に付箋を貼っていったら、10ページと置かずに付箋を貼り付けまくる派目に陥ってしまった。
それくらい、著者の言葉には説得力があり、こころの病に苦しむ人々への愛情があり、周囲の人々を救うものだ。
本作を読んで、「救われた」と感じる人は多いはず。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説以外(エッセイ・ノンフィクションなど)
感想投稿日 : 2012年9月17日
読了日 : 2012年9月16日
本棚登録日 : 2012年9月16日

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