他人の顔 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1968年12月24日発売)
3.69
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本棚登録 : 3071
感想 : 199
5

読了:2019.1.9

1951年「壁」で芥川賞を受賞した安部公房の1968年の作品。(これが50年前の作品とは…!)
顔を失い、コンプレックスに押し潰されまいと、本人はあくまで理論的に、はたから見れば内省的で鬱屈した子供のような自尊心でそれっぽい言葉を並べながら、自分の顔と向き合っていく話。
文章は妻に宛てられた手記として進んでいく。

普通の小説と違い、風景や行動の描写が非常に少なく、ほとんどが自分の感情・意識・感じていること・それをコントロールすることなどの説明が多い。また、素直じゃないことから来る感情の矛盾や回りくどい説得やプレゼンのようなこちらへの働きかけに、はじめは非常に読みづらかった。
ただ段々とこの文章から頭にイメージする作業に慣れてくるとぐんぐん引き込まれていった。

そして、くどくどしたものが仮面の完成と共に解放され、肉肉しい解放感と困惑を必死でコントロールしようとする。その様は読んでいてとても気持ち良かった。相変わらず言葉で自分を説得しようとはしているものの、そうだよ、素直になればいいんだよ、冷静なんて装わないで必死になれよ、楽しめよ、ってかんじでした(笑)

そして、ストーリーが8割進んだあたりで山場が来る。今までずっと主人公のオナ◯ーに付き合わされてきた私たちの形成逆転。この気持ち良さったら!
安部公房ってこーゆー文章のひとなのかなぁって諦めかけてた頃にこれは、本当に騙された感(笑)
やられたわぁ。すべては計算されてたんだ。

手を差し伸べられたことに気付かなかったことに落胆し、そこでまた素直になればいいのに、そこは主人公。ほんとにこいつは…。

最初から最後までこんなに手を抜かず一生懸命に生きてるのに、悩んで悩んで自己肯定できる材料を搔き集めるためにこんなに必死なのに。
それなのに、こんなに応援したいと思えない奴っているかね?(笑)


私は、この主人公がとても嫌い(笑)
コンプレックスのくせにそれを認めず、延々と「コンプレックスに思う必要はない。なぜなら〜」って話をしてる。でも実は延々と自分を説得し続けなければいけないほどに囚われている。

でも、昔は私もそうだったから、主人公の堂々巡りの言い訳の作業にとても共感してしまう。
自分のそういうところが大嫌いだったから克服しようとした。(比較的できるようになったと思う)
自分で自分を嫌悪する部分がモロに出ている主人公だから、私はこの人が嫌いなんだと思う。

今まで生きてきた中で「自分とは考え方違うけど理解はできる。この人すきだなぁ。」って人間にはたくさん会ってきたけど、「すげえ共感するけど、そーゆーとこ大嫌い」ってこともあるんだなぁってこの主人公を見る自分を見てそう思った(笑)




◆内容(BOOK データベースより)
液体空気の爆発で受けた顔一面の蛭のようなケロイド瘢痕によって自分の顔を喪失してしまった男…失われた妻の愛をとりもどすために“他人の顔”をプラスチック製の仮面に仕立てて、妻を誘惑する男の自己回復のあがき…。特異な着想の中に執拗なまでに精緻な科学的記載をも交えて、“顔”というものに関わって生きている人間という存在の不安定さ、あいまいさを描く長編。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2019年1月10日
読了日 : 2019年1月10日
本棚登録日 : 2019年1月10日

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